この一週間、ヴィオラの調整に時間をかけていました。このヴィオラは、ある音高生のヴィオラなのですが、これまで自己流の調整(弦の選択も含めて)を行ってきたらしく、方向が「よくありがちな」間違った方向に向いていました。これではいくら演奏が上手でも、それを表現することができません。

 この「よくありがちな」というのは、何もヴィオラだけに限らず、多くの人の楽器において見受けられるのです。

 その「よくありがちな」の大前提となっているのは、「性能の低い弓」なのです。すなわち、原理的に「圧力」をかけることができずに、弓の「スピード」で演奏することが全ての前提となっているのです。そのために、どうしても(原理的に)指板よりを楽器の表面を撫でるような(本人はそうは思っていないのですが)演奏になってしまうのです。

 今回のヴィオラの場合には、さらに楽器が厚めのタイプだったため、上記のような「楽器の表面を撫でるような演奏(弓の性能の低さから、原理的にそうなるのです)」では楽器が鳴りません。そこで、多くの人は弦を取っ替え引っ替え、試してみるのです。

 そして行き着くところ、弦の張力が弱めで(性能の低い弓でも弦の発音がしやすいです)、さらに明るい音がする(楽器の音が出ている様に感じるのです)弦を選択するのです。こうすると、一見楽器が鳴っているように感じるのですが、実際には弦だけが振動しているだけで、楽器本体、すなわち響板があまり振動していないのです。だから音に量感がなく、遠くにまで音が通らないです。「楽器の箱の音がしていない」という表現をされたりします。

 さて、そんな「ありがちの」調整をされたヴィオラをどうしたかと言いますと、まずは性能の高いヴィオラ弓を購入してもらいました。そして全てが、それ(圧力をかけられる性能の弓)を前提として調整するのです。

 ほぼ一週間調整を積み上げて(積み上げると言う表現が一番正しいです)、楽器の弾きやすさは当然のこと、音もずいぶん「ヴィオラの胴体」を感じるような響きになったと自負しています。本物の調整というのは、弦の種類だけの問題とか、そんな単純な話ではないのです。

 あとは所有者が気に入ってくださるかどうかですが。お引き渡しまでのあと2日で、最後の仕上げ調整を施します。

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