よく、「購入したときにはもっと良い音で、もっと響いていたのに、最近・・」という話をききます。
それで「購入したときの、あの時の良い音の状態に戻して欲しい」という調整を希望されます。一人二人ではなく、とても多くの方が同じような事を言います。
そのような数多くの楽器を私が冷静に分析すると、次のように分類されます。
- 購入後の調整が全く為されていなくて、本当に状態が悪い場合。
- 本人が、昔の自分の行動(その楽器を選んだ行動)を無意識に美化(肯定)している場合。
- 自分自身の演奏の能力が上がった場合。
「1.」に関しては説明する必要もないでしょう。楽器の汚さとかを見ただけで、自他共にいかにも調整をしていない事は明白です。音が悪くなっていないわけが無いのです。
「2.」に関しては、殆どの方は認めたくない事でしょうが、私が客観的に見て大多数と感じる要因です。すなわち、購入当時には「良い」と思って、それも大金を捻出して購入した楽器でも、後々、色々な欠点や、欠陥が見えてくるものです。「気づいた」または「指摘された」といった感じです。ところが、無意識にそれを認めたくなくて、「当時よりも楽器の状態が悪くなって、音が悪くなった」と思い込んでいるのです。
なぜ「思い込んでいる」と言い切れるかというと、楽器の調整による「表面的な音色のキャラクター」と、「楽器本質の音響」とは別物だからです。だから、後の調整(その調整のレベルと効果も想像できて考慮の対象に含まれます)によって若干の音の変化があったとしても、楽器本質は変わっていないからです。だから私は「元々、購入したときから、こういう音(性能)の楽器だったはずですよ」と言えるのです。
もちろん、購入後に、あからさまな粗悪な修理や調整が施された場合には、話は別です。しかし、そこまでの粗悪修理とか、粗悪調整は割合的にはきわめて少ないです。
「3.」は、後に、「性能の良い弓」を購入した場合に顕著にでます。自分自身の演奏の能力が格段に上がるので、「楽器の本質」が見えてくるのです。そうすると、「あれ、この楽器こういう音だっけ?前はもっと響いていたのに・・」と感じてしまうのです。
このように、一見楽器の音が変わったように感じても、実は自分の方が移動していて(変わっていて)、それで相対的に楽器が移動したように感じてしまうと言うことも多いのです。
いずれにせよ、重要なのは「冷静な分析」です。そして次が、きちんとした根拠の有る、対応です。
補足:上記「2.」の一部として、「単純な意味での音の慣れ」という要因もあります。良い楽器でも、人間とは恐ろしいもので、慣れてしまうとその音を当然と思ってしますのです。それで、「以前はもっと音が良かったような気がするのに」と感じてしまうのです。すなわち、これは「良い楽器の、良い意味での慣れ」ですから、悪いことではありません。
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