私は、「SPレコード盤」の事を、雑音の中にかろうじて音が記録されているだけの、たんなる「遺物」、「音楽歴史的な価値」くらいに思っていました。

 事実、テレビなどで蓄音器でSPレコード盤を再生している光景は何度も目にしていましたが、その音が良いと感じたことはありませんでしたし、またSP盤をCD化した音を聴いても、それまた魅力は感じませんでした。

 そう言った理由もあって、古い巨匠達の演奏にも、大した魅力は感じていなかったのです。

 ところが最近、ELPレーザーターンテーブルにて、自分自身でSPレコードを聴くようになって、はじめてSPレコードの情報量の多さを知ったのです。もちろんノイズも多いです。しかし、演奏の情報量も、私が勝手に想像していたものよりもずっと多くて、結果的に、私の巨匠達へのイメージも変わってきました。

 私の中での単なる歴史的な意味での「巨匠」達が、生身の人間、生身の演奏家へ、降りてきたイメージです。彼等、彼女らが現実に存在していたという実感を得たという感覚なのです。

 これは私の工房のお客様もまったく同じ感想を言っていましたが、楽器に関しても、「普通のヴァイオリン」を弾いているという事を実感できるのです。SP盤をCDに焼き直した録音だと、ヴァイオリンの音がまるで「生」を感じない電気楽器のような音がしています。しかし、実際には「普通」のヴァイオリンで演奏しているということを感じる事が出来ます。

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