良い楽器の音って、低音から高倍音まで素直に出ています。
発音した瞬間の「楽器の箱(胴体)の、ポンと鳴った音」が低音に当たります。「低音」というと、チェロやバスの事ばかり考えがちですが、ヴァイオリンにおいても「低音(胴体の発音)」は大事です。この低音成分が少ないと、楽器の豊かさ、柔らかさ、そしてダイナミックレンジすなわち迫力さが無くなってしまうのです。
一方、高倍音とは、高域成分のことです。ちょっと音響に詳しい人は、直ぐに「20KHz以上の超高倍音」という話をしたがりますが、実は弦楽器において、ヴァイオリンにおいても、20KHz以上の超高倍音はほとんど意味をなしていません。ほとんど出てさえいません。
ヴァイオリンにおいての重要な高倍音とは、8KHz位から15KHzくらいまでのせいぶんなのです。この周波数帯が素直にでていると、とても聴きやすく、しかし聴衆を刺激する(聴衆へアピールする)ような音となるのです。この周波数帯に暴れの有る楽器は、とても弾き疲れをしてしまうのです。
例えば、低音が出ていない楽器の場合、鼻が詰まったような音に感じてしまいますし、その逆に高音の出ない楽器の場合には籠もったような、箱鳴りのような音になってしまいます(注意:「箱鳴り」とは低音が出ているわけでは無く、低音域のある成分の過剰振動状態です)。
このように、良い楽器の音は、低音から高倍音まで素直に出ています。
しかし、一番重要なのは、当然と言えば当然なのですが、「中音域」なのです。ここが人間の聴覚において一番敏感に感じる部分です。円周率に例えるならば、「3.1415…」の「3」の部分なのです。我々技術者が手を加える部分は、この周波数帯域です。そしてそこまとめ具合が、技術の腕の見せ所なのです。
逆の事も言えて、低音域、高音域の周波数操作は不可能なのです。低音域は、楽器の構造(作り)で既に決定づけられますし、高音成分は楽器の素材で決定づけられます。もちろん若干の操作は可能ですが、大きな操作は不可能です。
このように、具体的な楽器の音響特性を把握しながら、楽器を扱うことが出来ることこそが、技術なのです。
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