少し前、ある音大生の方と弓の巻き革の痛み具合の話になりました。
その方の巻き革には親指の爪の跡が深く付いていて、凹んでいるのです。
それで私が、「弓が震えてしまって、悩んでいるでしょう?」と指摘したら、「その通りです」との返事か帰ってきました。もちろんその方の弓は私の工房で購入した良いものなので、性能的には全く問題ありません。
答えから言うと、弓をコントロールしようとして、弓を強く握ってしまい(だから巻き革に親指の爪の跡が付くのです)、それで逆効果で弓がさらに震えてしまうという悪循環に陥っているのです。
そこで私は、「オイストラフの自然でスムーズで、しかし力強い演奏」の事とか、「落合の一見ゆっくりに見えるけれど、ホームランを量産できるようなスムーズだけれど力強いバッティング」の事とかを説明しました。
さすがに落合のバッティングのことはピンときていないようでしたが、オイストラフの事には「なるほど」とうなずいていました。その方もオイストラフの演奏が一番好きだと言っていたので、話が早かったです。
このように、運動には原理があって、良い意味でも悪い意味でも結果が出ます。逆の事も言えて、理論がきちんとしていれば、ある現象(今回の場合には弓革の傷み具合)から解決策を比較的簡単に見つけ出して、実際に解決することも可能なのです。
演奏とは、スポーツと一緒です。考え方を(理にかなった方法に)変えて、ちょっと練習しただけで、それまでの自分の記録を、自分が驚くほど簡単に破ることだって、あり得るのです。
何度でも言います。重要なのは、「理」と、「理にかなった道具」です。それが嘘なら、私がこれほど同じ事を言い続けるわけがないではないですか。
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