あるお客様から、「この前張り替えた弦の、G線の発音がおかしいです。G線だけ交換してもらえますか?」と、お電話での相談がありました。
私は「原因はいくつも考えられますので、まずは工房にいらしてご相談ください」と答えました。
それで工房で実際に説明を受けて、大体の原因がつかめました。原因は弦そのものの品質の問題では無かったのです。
そのお客様は、演奏上のちょっとした不具合(エンドピンの先が首元に当たって痛い)から、私がセッティングした肩当てから、ご自分で全く別の肩当てに交換してしまっていたのです。
私の予想はこうです。
1.演奏上のちょっとした不具合(エンドピンの先が当たって痛い)。
2.肩当てを自分で購入。
3.肩当てを替えてしまったために、発音特性が悪くなった。
4.さらに弾き方(摩擦のかかり具合)も変わった。
5.弦の引っかかりが悪くなったと感じて、別の松ヤニを購入した。
6.合わない松ヤニを買ってしまい、弦がかすれる感じが増して、さらに松ヤニを多く付けた。
7.松ヤニを塗りすぎて、悪循環で、さらに弦がかすれる感じが増した。
8.特に、弦が太くてかすれやすいG線の発音だけが気になった。
9.弦の品質の問題だと思った。
このように、本人は真面目だからこそ、目の前の不具合だけが気になってしまうのです。
ほとんどの方は、自分の行ってきた行動自体に疑問は持っていません。なぜならば、一生懸命考えて実行したことだからです。さらにお金も費やしているので、その行動を改めて時間を引き返してまでして、再考することはしません。
だから目の前の現象だけで、結果を判断しがちです。それは、当事者だから起こる、ごく普通のことです。
一方、我々専門家は、客観性があります。だから本質を言い当てることが出来るのです。
だから、何度でも言いますが、ご自分で勝手に部品や弦や、松ヤニなどを買って、交換してはいけません。我々技術者は、総合的に考えて、それらの部品を装着したり、お売りしているのですから。
ご自分で行動する前に、行きつけの楽器店の技術者に相談してください。