昨年末に私の工房にて楽器を購入してくださった方が、別件で工房にいらしてくださりました。
そして、「購入後から、楽器の音が、日に日に良くなっている」と感想を述べられました。
ところがその感想は、私が客観的に考察すると、100%とは言いませんが、おそらくご自分の勘違いです。
というのは、私が仕入れてきちんと調整した楽器の音が、僅かな日数だけで、音響的に向上するとは思えないからなのです。
それではなぜ「日に日に音が良くなっている」と実感できるかというと、楽器側の変化ではなくて、自分自身側の変化だと考えられます。
弓の購入者も同じなのですが、ほとんどの方は、試奏したときにその「違い」を実感されて購入するとは言え、本当には性能の違いを理解できていません。というのは、それまで自分が一生懸命構築してきた、自分自身の価値観というものは意外と頑固で、私が工房でちょっと説明したくらいでは、修正、解除でないからです。
だから、ほとんどのお客様は、購入して数週間~数ヶ月使っている内に、「なるほど」とか「おおっ」とかの実感を得て、自分自身の価値観も自然と変わっていくのです。
その変化が、楽器側の変化と感じたのでしょう。
もちろん、自分自身の弾き方が変わって、楽器の音に変化が起きるのですが、それも楽器が鳴るようになったわけではありません。自分自身の変化なのです。
何が言いたいのかというと、多くの方は、自分自身で一生懸命努力して「良い音」、「良い弓」、「良い楽器」、「良い演奏」、等々の価値観を構築していると思います。しかし、それって、違っていたりするものです。だから、自分で考えたり、試奏したりしないで、人の話に耳を傾けたり、信頼できる技術者の紹介する楽器を購入する事が重要なのです。
自分で構築した考えや価値観は、所詮自分の器の範囲内のものです。皆さんの器が小さいとバカにしているのではありません。ある分野の真の専門家の意見を取り入れることで、皆さんの世界観が格段に広がりますよという話なのです。それが私だとは言いません。ご自身が信頼している専門家に、腹を割って相談してみてください。
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