私が仕入れなどの時に楽器を見る時に、そのポイントはとてもたくさん有ります。そのたくさんのポイントの中の一つではありますが、「楽器の歪み」があります。

 楽器には「弦の張力」という、想像以上に大きな力が数十年~100数十年(場合によってはそれ以上)にも渡ってかかり続けています。だから多かれ少なかれ、何らかの歪みは生じるものなのですが、しかし、楽器の作り、精度によってその度合いは全く違うのです。

 大ざっぱな説明にはなりますが、歪みの大きな楽器は、何らかの強度不足であると言えます。と言うことは、その強度不足の位置に当たる周波数において、共鳴の特異点があるという事なのです。すなわち、異常共鳴ポイントであり、箱鳴りであったり、酷いヴォルフ音であったり、または鼻が詰まったような詰まり音の原因であることが多いのです。

 逆の事も言えて、歪みの無い楽器は、異常共鳴ポイントがあまりありません。

 例えば、とても厚めの作りの、重めの楽器で、さらに作りの精度が良い楽器があるとします。このような楽器(作りの精度も良いです)は歪みはありません。だからその周波数帯域に異常共鳴ポイントがほとんど出ないのです。
 ところが欠点もあって、そのような重め(厚め)の楽器は、強度的には理想的なのですが、発音(振動)体としては、振動しにくいというのが最大の欠点になります。すなわち、音の線が細くて中低音の鳴りが悪いのです。

 それでは私の考える、理想的な楽器とは何か?というと、振動体(共鳴板)として適切な厚み(薄さ)しかないのに(薄いほど良いと言っているのではありません)、しかし強度的にしっかりした物なのです。

 それが私の説明するところの「ハガキの理論」であり、「製作精度」の意味なのです。カントゥーシャ作の楽器は、感心するくらい、製作理論も、実際の製作精度も優れています。だから数十年経った楽器でも歪みがほとんど出ていませんし、音も連続して素直なのです。

 楽器の音を知る上で、実際に弾くよりも、外観を見る事の意味はとても大きいのです。

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