以前から、「消音器を使うと、楽器が鳴らなくなる」という情報というか都市伝説があります。

 しかし、弦楽器の技術者であり、弦楽器の音響を長年追求、研究している私が言い切ります。

「鳴らなくなる」という根拠はありません。

 もちろん何らかの「変化」はあるかもしれません。しかし、その「変化」がマイナスに働かないで、プラスに作用するかもしれません。または変化量、変化継続時間等々、それらを的確に計測して、研究した上で情報を発信している人がいるでしょうか?

 ほとんどは、「自分はそう感じた」という、感覚的で無責任な情報ばかりです。

 それではなぜ多くの人が「鳴らなくなった」と感じるのかというと、それは消音器を付けて演奏する事で、自分自身の演奏(ボウイングの特に圧力要素)が消音器を付けて音が出ない状態の楽器に無意識に合わせてしまったからなのです。

 すなわち、楽器に変化が起こったのではなくて、自分自身の変化が大きいのです。

 もちろん、楽器の変化が理論的にゼロと言っているわけではありません。しかしその変化量がマイナスに働くのか、またはプラスに働くのか、変化量の大きさはどうなのか、または変化継続時間はどうなのか、そうそう単純な話ではないのです。

 それよりも、無意識に起きている自分自身の変化の方が影響力としては大きいのです。

 これは、「楽器の弾き始めは、楽器がまだ目覚めていない」とかいう感想とも似ています。目覚めていないのは、自分自身の方なのです。

 なぜほとんどの方が、そんな単純な事を理解できないのかというと、人は「自分自身を原点にして物事を考えがち」だからです。だから自分のブレを、楽器のブレと思ってしまうのです。

 さて、本題から逸れてしまいました。

 もちろん、消音器を付けないで練習した方が良いには決まっています。しかし、練習環境の問題からどうしても消音器が必要なとき、心配しないで活用してください。

 ただし、下記の二点は注意してください。

・お勧めの消音器は、軽いゴム製の消音器です。重い金属製の消音器の方が消音効果は大きいのですが、ゴム製の方が楽器に落としてしまった時のトラブルがはるかに小さくなります。
 さらにこのゴム製消音器は、金属製消音器と違って駒にスッポリと深く装着出来ますので、演奏中に弓と弦の接触部分(弦を弾く位置)が消音器の影で隠れにくいのです。すなわち、視覚的に自然な演奏が出来るのもメリットです。

・次に重要なのが、消音器を付けて弾くときも、消音器をつけていないときと同じように、朗々とした音を出して(出すつもりで)演奏する事です。そうしないと、せっかくの練習がマイナスに繋がってしまいます。

関連記事: