先日、中国製のチェロの修理・調整を行いました。安い楽器なのに(具体的な値段を聞いたわけではありませんが)見た感じはなかなか良く出来ている楽器でしたが、実際に手を加えだしたら、やることやること全て手こずりました。基本的に修理とか調整の事まで考えて作られていないのです。
 なお、この楽器の名誉のために言っておきますが、このような「修理や調整の事まで考えて作られていない楽器」は他の量産楽器や、高価だけれど下手くそな手工楽器にも言えることで、この中国製楽器だけの話ではありません。

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 手こずった内容は多かったのでその全てをあげることは不可能ですが、その一例として、上写真ように指板削りをする時にはオーバーザッテル(上駒)を外すのです。上手な製作の楽器ならば、”剥がしベラ”を軽く差し込むだけで、僅か5~10秒で外すことが出来ます。そして、外したオーバーザッテルも、指板側も楽器側も何処も傷んではいません。これが「修理を考えられて作られている楽器」なのです。
 ところが今回は、剥がしベラを差し込んでもびくともしません。強力な接着剤で、まるで親の敵をとるかのように、徹底的に接着されているのです。私も慎重に、剥がしベラを4枚も併用してオーバーザッテルを外そうとしたのですが、結果は上の写真の通りです。さらにオーバーザッテル自体の木質と木目の製材もいい加減なので、このように割れてしまうのです。

 ようするに、手間がかかるのです。そして結果、お金もかかるのです。それどころか、下手な技術者の手にかかると、手を加えようとするほど楽器の状態が悪くなってしまう可能性も高いのです。

 同じ事は指板削り作業にも言えます。指板の材質が悪いのでうまく削れないのです。さらに柔らかい木質なので、傷みやすかったり、色が黒くないので削った後に着色作業をしなければならなかったりと・・。そしてそれ以外にも、到る所で同様の事が・・。

 しかし何度でも書きますが、このようなことは何もこの楽器だけの話ではありません。多くの量産楽器、またはレベルの低い手工楽器において、または下手な技術者の手が施された楽器においてこのようになってしまっています。

 楽器を購入するときには、多少無理をしてでもある程度の高い楽器を購入するべきと思いますよ。最初は「私は初級者だから、このくらい安い楽器でも」と思うかもしれませんが、弾いている内に直ぐにさらに上を目指したくなるものです。その時に、きちんと調整が出来る楽器を最初から購入すべきと思います。

 最後に、今回のチェロですが、とても手間はかかりましたが(お金はかなりかかりましたが)基本的な作りが良かった(悪くなかった)ために、かなり良い音に仕上がりました(今回の修理・調整の前に、私の工房で性能の良い弓を購入してくださったのが大きいです。それを前提とした調整なのです)。お客様もとても喜んでくださり、私も嬉しかったです。

 

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