つい先ほどチェロのお客様が調整にいらしたのですが、「つい最近駒が急に低くなって、とくにA弦が指板にビリ付いてしまう」とのことでした。

 実際に私が確認しても、駒が全体的にかなり低くなっていました。冬にはこういうトラブルはよくあることなので、「急激な乾燥で指板が上がってしまったと思います。だから梅雨時にはまた戻るかもしれませんが、さすがにそれまで悠長に待つわけにもいかないので、駒交換になります」とお答えしました。

 しかし、お客様が帰った後にちょっと引っかかる点があったので、色々な箇所を詳しく点検してみました。
 このチェロは数年前に私が販売したイタリアの新作楽器で、楽器の構造も、指板の厚さもまだ問題ありません。事実、表板が凹んで歪んでしまっている症状もありません。
 響板の剥がれ、ネックの抜けなどの不具合もありません。それに第一、駒が全体的に均等に低くなっているのです。多くの場合には、どちらか一方の下がり具合が大きかったりします。

 だから、乾燥のせいだけとは思えなかったのです。

 不思議に思いながらも、交換する新しい駒(未加工)を取り出して、原因が判りました。

 このチェロに立っている駒の両脚の幅がやけに広いのです。この写真だけだとそれほど違いは感じないかもしれませんが、比較すると普通のベルギー駒の脚の開き方とは全く違います。

 私の推測では、新作チェロ製作者が意図的なのか、たまたまなのか、両脚が開きすぎの駒を立ててしまったのです。最初はそれで問題なかったのですが、弦の上からの大きな力に耐えきれずに、つい最近、斜面を滑り落ちるようにいきなり両脚が大きく開いてしまったのです(ベルギー駒はドイツ・フランス駒よりも脚が長いので、変形してしまったのでしょう)。

 ちなみに、f孔に近いほど、曲面に対しての接線の斜度は急になります。

 それで最近いきなり駒が低くなってしまったと考えられます。駒の設計が原因とは、ちょっと珍しいパターンです。

 発見が遅れてしまったので、駒の脚で表板が傷んで(凹んで)しまっていたのが残念な点でした。

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