楽器の音を感覚的に語る人はたくさんいます。まるで音楽評論家のような雄弁さで語っているのです。

 これは楽器の弦だとか、松ヤニとか、肩当てとか、そういう小物商品においても同じです。

 ところがそういう人が音響的な事を追求、探求しているかというと、意外なほど目を背けているのです。ようするに、感覚的な事を言葉で語るのが好きなのでしょう。自分に酔いしれているのでしょう。

 楽器の音響を探求しようとすると、実験するためのお金も時間もかかります。そして探求するほどに、難しさだけが見えてくるのです。ゴールはどんどん遠ざかっていきます。

 具体的に言えば、良い音を録音しようとしただけで、マイクロフォンで数十万円。良い音で再生しようとするだけで、最低でも色々な機材に合計100万円はかかることでしょう。さらに音響計測器はとんでもない額です。

 そんなに時間的な努力と金銭的な投資をしても、楽器の本質のしっぽを掴むのは難しいのです。だから皆、目を背けるのです。感覚的な事を語っていた方が楽しいのです。

 例えば私が以前公開したこの動画、とても役に立つ内容なのに、4年も経っているのに再生数が460回です。そのくらい楽器の音響に興味は持たれていないと感じます。

 もちろん、「ストラディヴァリの音の秘密」みたいな内容だったら、興味のもたれかたは断然違うと思います。しかし純粋な音響探求実験には、ほどんどの方は無関心なのです。

 だから「良い楽器(弓)」が身近にあってもすれ違ったり、無茶苦茶な高価な楽器を掴まされたり、または演奏の技術が効果的に向上できないのです。

 時々お客様から、肩当ての事だとか、松ヤニの事を尋ねられるのですが、私は松ヤニの粒子を顕微鏡で観察したり、または弦や駒の運動をハイスピードカメラで観察したり、FFTで音響を観察してみているから、具体的な説明ができるのです。

 観察によって簡易モデル化をするこができ、そこから考察、そして応用へとつなげることが出来るのです。

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