私の工房にて弓竿の腰が強い良い弓を購入された方に、「腕の重さを自然に乗せて、圧をかけて朗々とした音を出す」という説明をしています。事実、その時にはとても良い音で楽器が鳴っているのです。本人も、「自分の楽器ってこんな音がでるのですね」って驚かれる人も少なくありません。

 しかし次に工房にいらしたときには、またスピード(アタック)で音を出す、雑なボウイングに逆戻りしている方も多いです。

 なぜそうなってしまうのかというと、ボウイングの癖というよりは、間違った考え方(間違ったボウイングの理論)が脳に染みついてしまっているからなのです。

 「大きな音は速いボウイングで出す」とか、「大きな音は激しいもの」とかの間違った考え方です。すなわち、「圧力」の考え方が入っていないのです。それはなぜかというと、それまで「圧力」を掛けられない弓で練習をくりかえしていたからなのです。

 真の意味での「良い弓」とか、または真の意味での「良い楽器」に関して、私は長年にわたって「そうではないのです」と説明し続けてきました。しかし、信用してもらえないのが残念です。

 演奏とはスポーツといっしょで、「理にかなった物理運動」なのです。そして理にかなった物理運動を行うためには、「理にかなった道具」が必要なのです。それは感覚論とか、ラベルとか、評判(=情報操作です)とかではありません。

 ネットで都合の良い情報ばかり収集しているようでは、自分を変えることはできません。上達とは、自分を変えることなのですから。

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