先日の話ですが、以前私の工房で高価なヴァイオリンを購入してくださった方が、いつもの定期の調整後に「音がおかしい」と言って再調整にいらしたのです。今回の調整ではアゴ当ての再調整など、若干音の微調整も行っていたので、私は「音を気に入って頂けなかったのかな?」と心配しながら、ヴァイオリンをチェックしてみました。

 確かに、その方が指摘したとおり、音がイマイチでした。そこで魂柱調整したところ、改善したのですが、そのお客様の表情にはまだ引っかかる感じが残っていました。「松ヤニの付ける量と音色」とか、「毛を張る量と弓にかかるベクトルの向き」とか色々会話や説明、ちょっとした調整のやりとりをしている内に、私はそのお客様の行動に気づきました。

 その方は肩当て(私の工房で改造したもの)を、ギュッと楽器に強くはめ込んでいたのです。出る音が何かおかしいと感じたので、無意識に、いつもと「弓の毛の張り」「松ヤニの量」「肩当ての装着方法」「ボウイングの奏法」に変化が起きてしまっていたのです。それらが結果的に、悪循環にはしていたわけです。

 私が肩当ての装着具合を指摘したところ、私の驚くほど音に変化が出ました。もちろん、お客様も満足してくださりました。

 

 多くの方は肩当ての位置や高さなどを勝手に動かしてしまうのですが、私のところの調整では上記のように、「ピンポイント」まで煮詰めて調整しています(だから音が良くなるのです)。逆の事も言えて、自分で勝手に動かしてしまっては、せっかくの調整も台無しになってしまうのです。

 

補足:上記の「肩当て」の話は、高性能な楽器に高度で繊細な調整を施した上での、「肩当て」の話です。肩当てだけで音が劇的に変わるほど、楽器の調整は簡単なものではないので、その点は誤解されないようお願い致します。

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