弦楽器関連の話ですが、大学生のレベル(楽器に関する意識)が下がっていると感じます。皆とても賢くて、素直で良い子ばかりなのに、色々な意味で程度が低いのです。
なぜこうなってしまったのだろうか?と考えると、原因はいくつか考えられるのですが、私がその中で一番深刻だと思うのは「インターネットの悪影響」です。ブロードバンド、スマートフォンの普及によって次の事が増えてしまったのです。
判らない事を自分で手っ取り早く調べる(ことが出来る)ようになった
ブロードバンドの普及によって、判らない事があると手軽にネットで情報を調べる事が出来るようになりました。これはとても便利な事です。しかし、この便利さは両刃の剣なのです。
ネット上にはいい加減な情報が蔓延しています。弦楽器関連でも、知識の無い人ほど、質問に答えたりしています。本当の意味での知識(専門的な技術的根拠のある)が無い人ほど、その薄っぺらな知識を得意満面にネット上に書きまくるものなのです。
このように、ネット上の情報レベルはピンからキリまで様々なのですが、たちが悪い事に、いい加減な情報ほど単純で直接的なので理解できた気になれるのです。例えば一番わかりやすい例として、「弦はどれがお勧めですか?」みたいな質問があったとします。知ったか君達は、「○○○弦はこういう音色の傾向で、×××弦はこういう音色の傾向で・・」のように答えることでしょう。しかし一方、私が本気で答えるとしたら、「楽器の特徴によって、または調整の方向性によって、さらには弓の性能によって結果は違ってくるので、専門家の所で話し合ってください」と言う事でしょう。これは私の本気の答えです。しかし、このような答えは、ネット上では求められていないので、ほとんど無視されてしまうのです。
次に重要な事は、「ネットは自分を否定しない」という事です。ネットは常に自分に肯定的なのです。先にも述べましたように、ネット上の情報には様々なものが存在します。しかし、実際に自分がパソコンの画面に表示するものは、自分の理解の範疇で、それも自分の考えの背中を押すものばかりです。すなわち、自分の考え(能力)の範疇を超えているものは認識さえもできないので画面に長時間表示することは不可能ですし、自分を否定するものも表示することを拒むものなのです。
ネットは常に肯定的です。しかし、本当に自分にとっての財産とは、自分を否定(指摘、指導、矯正)してくれる人なのです。
SNSでのコミュニケーション
ブロードバンドやスマートフォンの普及によって、友達同士の間でさえも、直接の会話すればよいこともネット上ですませることが多くなりました。これは私の娘達をみていてもそう感じます。このような風潮によって、人と人同士の会話能力の退化だけでなく、会話の内容自体が幼稚化してきていると感じます。
通販の悪影響
インターネットの普及によって、通販会社が繁盛しています。お金のかかる店舗も、技術者(これもとてもお金がかかります)も持たなくてよいので、当然のことながら商品を安く売ることができます。若い人たちはお金を持っていないこともあって、この「目先の安さ」に飛びついて、弦だとかケースだとかを購入してしまっているのです。
しかし、それによる弊害は大きいです。なぜなら、通販会社からは購入した商品以外の「何も手に入れることができない」のです。本来ならば、楽器店に行って、自分よりも年上の能力のある人達と会話をしたり、または知識を得たり、または注意をされたり、または良い楽器などを触らせてもらったりしながら成長していくものなのです。社会に育てられるものなのです。しかし、色々な事をネット上だけで済ませている人に、その機会や縁は巡ってきません。
学生さんに限りませんが、私の工房にいらっしゃったお客さまの多において、私が注意したり指摘したりすると、「だって、そんな事は知らなかった」とか、「今までそんな事を誰からも言われたことがなかった」とか、「自分では全く気づかなかった」とか、言い訳する人が多いのです。
その通りです、自分自身では気づかないものなのです。高度な技術を持っている専門家で暇な人は誰もいませんから、わざわざあなたを捕まえて注意をしてくれる人などいないのです。無償の愛をもって注意してくれるのは、親だけです。
それならば、どうやって自分自身に対して「注意」、「指導」、「指摘」、「否定」、「矯正」などという大きな財産を導いていくのか?それは普段自分の方から、自分よりも大きな人と接することを求める努力をする以外に無いのです。
怖いと感じるかもしれませんが、人と接してください。会話をしてください。肯定ではなく、「否定」を求めてください。そのためにお金を使ってください。
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