新弟子の川口君は、自分の道具を購入したり、素材から一から自作するのが課題です。私の工房の修行の課題のかなりのウェイトを占めているのが、「高精度な道具を揃えること、作ること、そしてそれを作れる基礎技術を身につけること」なのです。

 そこで川口君も早速自分の道具作りに励んでいるのですが、見本としている道具は、私の道具ではなく、林さんの道具なのです。

 なぜ親方である私の道具を真似するのではなく、姉弟子の林さんの道具を真似しているのか? それは林さんの道具の方が、私の道具よりも上手に作られているからなのです。

 私が、私の全てのノウハウを教えて、私がまだ修行中だった時に作ったり買ったりした物、以上の道具を作ったり、購入したりすることを弟子の課題としているからです。そのための作業には時間は惜しませません。だから私の工房での修行は、お金もかかりますし、時間もかかるのです。

 ヴァイオリンを実際に作る事など、二の次、三の次なのです。

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