現在新弟子の川口君は魂柱立て棒を、鉄板から切り抜いて丁寧に作っています。魂柱立て棒なんて、安い値段で売っているポピュラーな道具です。それではなぜ、わざわざ鉄板を切り抜いて、手間を掛けて作っているかといいますと、そのような既製品は精度が低いし、美しくないからです。

 道具は一生物です。最初に美しい道具を作れば、それを一生使い続けることができるのです。逆に、最初にいい加減な道具を揃えてしまうと、またはとりあえず中途半端な道具を作ってしまうと、何だかんだと言い訳しながら、その中途半端な道具を一生使い続けてしまうのです。

 だから私の工房では、職人初級者の内から、ビシッとした美しく、そして高性能な道具を購入したり、または作ったりするのです。「ヴァイオリン製作」なんてほとんどさせません。しかし、知らないうちに基礎ができていて、ヴァイオリン製作もできるようになっているのです。

 林さんは5年間以上、私の工房で徹底的に、たくさんの美しい道具を作ったり揃えたりしてきました(その点は、最初の弟子の伊藤君を教えていた時以上に徹底的に行いました)。川口君も、林さんを見習って、「ビシッ」とした自分の道具を揃えていかなければ。

 皆さんが職人さんの道具を見る機会があったら、ちょっと意識して見てください。全てにおいて(一部ではだめです)、「美し道具」を揃えたり、作っていたりしている職人さんがいたとしたら、その人の技術は優れているはずです。または、まじめなはずです。

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