つい先日、林さんの卒業製作のヴァイオリンが完成し、初めて音を発しました。林さんは弦を張りながら「まともな音だろうか?」と、ちょっと不安げでしたが、私は全く心配はしていませんでした。

 というのは、「楽器の音は、材質と構造から決定づけられる」という極単純な仕組みを、私は知っているからです。林さんの製作理論(もちろん今回は私の製作理論です)と製作精度、材料などを全て知っていますから、出る音も大体予想できていたのです。良い音は(個人の好みの問題は別として)はベテラン職人だから出るというわけではなく、その逆に、作品第一号だからといって出ないわけでもないのです。理にかなった製作ができていれば(それが難しいのですが)、当たり前に出るのです。

hayashivn2 もちろん、林さんの楽器は合格点の素晴らしい音でした。まだ、とりあえずの調整で音を出しただけだったので、本格的な音というわけではありませんが、カントゥーシャ氏の楽器の特徴をもった、全ての音域でバランスが良くて、少し甘い感じの音色の音でした。

 その林さんは、楽器完成と同時に、工房から完全にいなくなってしまいました。何か寂しいような、しかし、弟子を一人送り出した安堵感もある、不思議な感覚です。伊藤君の時も同じでしたが。

 ちなみに写真は、ニス塗りが完了して指板を接着後の状態です。隣の、調整に来ていたカントゥーシャ作のヴァイオリンとそっくりでしょう?

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