これまで何度も、工房を訪ねてきた(もちろん事前予約の上で)20代の子達に「弟子」の事について話をしてきました。

 ところが、この20年の間に、若干雰囲気が変わってきているのに気づきました。それは、「弟子希望」というのを、まるで就活の一環のように考えている人が増えていることです。

 例えば実際の事ですが、私にまったく悪びれもなく、「今、色々な工房、楽器店、専門学校を訪ねて話を聞いているところです。佐々木さんの所は、今弟子を募集していますか?」みたいな感じです。

 「弟子」って、専門学校の学生を採るのとは全く違いますし、または会社面談とも全く違います。弟子を受け入れる側は自分の生活や財産(金銭的なものだけでなく、技術という財産も)を切り崩して、赤の他人の子の教育を無償で受ける行為なのです(赤の他人の若者があなたの家にやって来て、あなたの預金口座の中のお金を分けて欲しいと言われたら、そう簡単に受け入れますか? 大げさな例えに思われるかもしれませんが、弟子を受け入れるっていうことは、こういう事なのです)。

 話を戻しますが、例えば、ある落語の師匠の所に弟子入り希望の場合、「今、色々な師匠の所をまわっているのですが、あなたは今、弟子を採用しますか?」などとは訊かないでしょう。「師匠!私は以前からあなたの大ファンで・・」が、本来のあるべき姿なのです。
 そんな「自分を慕って、尊敬してくれる者」だから、「そこまでの覚悟なら」という話になるのです。

 厳しいようですが、または嫌みに聞こえるかもしれませんが、私を尊敬、または、私の行ってきた事に対してあこがれを感じていない方は、私の工房には「弟子採用の件」で訪ねてこないでください。どうか、私でなく、他の、心から尊敬する人の元で勉強してください。

 私の工房に「弟子採用の件」で訪ねてきたい場合には、最低でも下記の1項目ぐらいは実行してもらいたいものです。
1. 「弦楽器のしくみとメンテナンス」を購入して、じっくりと読む。
2. 「弦楽器製作工程ビデオディスク」を購入して、じっくりと視聴する。
3. ホームページやブログをじっくりと読む。

 ちなみに「1.」と「2.」のポイントは高いです。なぜなら、「お金を出してでも、そこまで私に興味があるのか」と、私の方が感じるからです。逆に、「ホームページを昔から読んでためになっています!」っていう人は、ちょっと突っ込めば口だけの事がばれてしまいます。

関連記事: