以前にマイスターのQ&Aにて説明済みの内容ですが、このブログでも簡単に説明しておきます。
箱形のペグボックス
殆どのチェロや、一部(とくに古い)のヴィオラにおいて見かける、幅広のペグボックス(糸倉)です。ヴァイオリンにおいては殆ど見かけません。
この箱形ペグボックスは、弦の仕組みと音域との関係で、採用されるのです。低音域の弦ほど、太い弦が用いられます。特にガット弦しか無かった初期の頃には、4番弦(最低音弦)の太さは現代と比べて極端に太く、ペグボックの幅を広げなければ(というよりも、元々幅広の糸倉の方が標準なのです)その太い弦を糸巻きに巻き取ることができなかったのです。
補足になりますが、弦の直径は、(弦の張力を同じにした場合)弦の線密度によって決定されます。すなわち金属の様に重い素材を用いた弦を作れば、弦の直径を細く作れるのです。しかし、金属の様に重くて固い素材で弦を作ってしまうと、音階感の無い(極端に例えればトライアングルのような)音しか出ません。
すなわち弦の設計とは、「重くて、しかし剛性の低い、さらに強い」、一見相容れない性能の追求の歴史でもあるのです。
ヴァイオリン初期の頃には、柔軟性があり(すなわち音階感があり)、しかし引っ張りに強い素材としては、天然ガットしかありませんでした。しかし残念ながら、天然ガットの密度は低いので、低音楽器の弦は、現代と比べて、もの凄く太かったのです。
蛇足になりますが、「重く、しかし剛性が低く、しかも強く」という理想的な弦を追求して、下記の様な方法が開発ていきました。
・捻り線
・撚り線(ロープと同じ原理)
・金属巻線(丸線巻から平線へと進化)
・化学繊維の芯材の進化
・中間シートの進化
・タングステン金属など、比重の高い金属の使用
このような弦の進化によって、弦代の低音楽器の弦は驚くほど細くなり、幅広の箱形ペグボックスをもちいらなければならない理由も低くなりました。そのため、現代の殆どのヴィオラはヴァイオリンと同じ形のペグボックスを採用していますし、チェロでもヴァイオリンのようなペグボックを採用しているものも出てきました(見たことがあります)。
ちなみに、箱形ペグボックスの欠点は、重くなってしまうことです。
角指板の意味
角指板の意味も、箱形ペグボックスと同じ理由から成ります。初期の裸の天然ガットの弦は、弦代の金属を利用した弦と比べてとても軽い弦でした。このような軽い素材で低音弦(特に4番弦)を作ると、もの凄く太い弦を作る事になってしまうのです。しかし太くしすぎると剛性が高くなってしまって、音階感の低い弦になってしまいますし、演奏もできません。そこで、折衷案として、弦も太いけれど、張力を低くして(弦代と比べてです。以前はそれが普通でした)、「低音」を出したのです。
弦の張力が低ければ、振幅が大きくなります。そうすると指板に接触してビリつき音が出てしまいます。だから最低音弦の指板だけを極端なくらい平面に削って、ビリつき防止対策を行ったのです。これが角指板です。
以前はヴァイオリンでも角指板を用いたものもありました。しかし音域が高いヴァイオリンの場合には、例え裸のガット弦を用いたとしても、チェロやヴィオラほどには弦の直径もさほど太くなりませんし、4番弦の張力もさほど低くはなりません。だから、あえて不自然な角指板を用いる必要が無かったのです。
ヴィオラの場合には、つい20~30年前までは角指板がかなりの割合でしたが、最近の新作では殆ど目にしません。チェロの場合でも、新作では角指板を使わない事が多くなりました。
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