先日、ちょっと弓に詳しい方なら知っている、銘のある高価な、いわゆる「オールドフレンチ弓」の修理がきました。この弓の所有者はある演奏者で、私の工房にいらして、もうずいぶん長いお付き合いの方です。その方が、音大時代に清水の舞台から飛び降りるくらいの気持ちで購入した弓だそうです。

 ところがその弓、驚くほど実性能は低いのです。私の工房に初めていらしたときに、真っ先に指摘した事でした。そのオールド弓を購入する前に使っていた、「もう1本の弓の方が、はるかに良い弓ですよ」と言ったのです(実際、とても良い弓です)。

 最初は、桁の違う価格差に、「そんなバカな」という感じでしたが、私が具体的に理論的に説明すると、確かに思いたるふしもあったそうで、すぐに私の事を信用してくださいました。それでそれ以降、そのオールド弓はサブ弓になっていて、私もあまり毛替えとかの作業でお目に掛かることはほとんど無かったのです。

 久しぶりに見直してみても、相変わらず実性能が低いです。ただ、こういう事例って全然珍しいことではなく、ごく普通の事ですから、私自信は驚きもしないです。

 このように、演奏が上手な方でも、周りの間違った常識や価値観から、それが良いと思ってしまうのです。

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