「調整」は、基本的に2段階に分けられます。第一段は「変化」、次が「継続」です。

 例えば、最初にいらしたお客様の楽器は、私から言わせれば総合的に酷い状態の場合がほとんです。所有者本人は全く気づいていないのですが、弓の性能があまりにも低かったり、指板や駒のセッティングがお粗末で、とても弾きにくかったり。または、音が悪かったり。

 そこで、本格的な、全体的な全調整を行うのです(弓を良い性能の物に購入してもらうことが前提となることが多いです)。そうすると、その激変ぶりにお客様はとても喜んでくださります。

 ここまでは単純な話です。問題は、次の段階なのです。

 調整の第二段階は「継続」です。

 多くのお客様は、「変化」を求めます。だから常に物珍しさを求めてしまうのです。しかし、楽器をある程度高度な状態に持った行った後は、そうそうそれ以上の変化は起きません。そんな都合の良い甘い世界ではないのです。

 イメージ的には対数曲線みたいな感じです。楽器にかけた金額(または試行や努力)はある程度煮詰まってくると、この対数曲線のようにそれ以上は劇的には向上しないのです。

 しかし、本質が判っていない人は、「変化」や「物珍しさ」を求めてばかりいるので、現状に飽きてしまって、「継続」を止めてしまうのです。具体的には、他の楽器店へ移ってしまったり、または自分勝手に弦を交換してしまったり。

 しかしもう一度グラフを見直してみてください。一見地味な「継続」の中に、「向上」が含まれていることを。これこそが重要な部分なのです。

 重要で本質的なのは、「地味」で、「普通」の事を一貫して続ける努力です。私の技術でも、特別なことはしません。まして、魔法の技術なんて持ってもいません。ごくごく「普通(標準的)」な事をとことん追求することこそが、それこそが「高度」な事だからです。

 

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