皆さんも当然理解していることですが、楽器から出る音の要素には、「演奏」の要素と、「音響(音質))」の要素があります。この2つの要素によって、音楽が構築されるのです。
具体的に説明すると、「演奏」の要因とは、いわゆる「曲」です。例えば、無機的な電子音だけでも「曲」は演奏可能です。
一方、「音響(音質)」とは、楽器から出る音の物理的な特性です。例えば、「周波数特性」、「発音特性」、「バランス」、「ダイナミックレンジ」等々です。判りやすいところでは、ワンボウで開放弦を弾いた音です。これは楽器の音ではありますが、音楽とまでは言えないでしょう。
すなわち音楽とは、これらの独立した2要素をいかに効果的に組み合わせて構築するかという、構造論と言っても大げさではない行為なのです。だからプロの演奏者は当然として、アマチュアの方も一生懸命な努力を行っています。
しかし、私は常々疑問に感じていることがあるのです。
あれほど練習熱心な方々が、楽器の「音」に対して意識が低いと言うことです。意識が低いというよりも、「判っていない」という感じでしょうか? 「勘違いしている」と言った方が正しいでしょうか? いずれにせよ、「演奏」の努力に対して、楽器への音響的な興味が低いのです。
最近、私は工房にいらしたお客様に、オーディオ装置で音楽を聴かせると、皆さん「今までの曲の(楽器の)イメージと違う」と口を揃えておっしゃいます。これで、私の長年の疑問の解決の糸口が見つかった気がします。
すなわち、多くの方は、普段聴いている音楽の質が低すぎるのです。だからそこから「曲」は見えても、「音」が見えないのです。多くの方が意識できる音とはごくごく薄っぺらな、表面的なものなのです。だから楽器に対しても、そういう表面的な音色しか求めないのです。少し厳しい言い方をすれば、譜面を表面的になぞっているだけで、「音」は出ていないのです。
事実、同じ曲を再生しても、スマホで聴く音楽と、きちんとしたオーディオ装置で聴く音楽とでは全く、本当に全く違って聞こえます。これはとても重要で、深刻と言ってもよい現象です。
それでは「生」のコンサートを聴くのがベストなのか?というと、そうでもありません。生のコンサートの音は、あくまでもホールの音なので、どちらかというと「楽器の音響」というよりは「曲、演奏」の方にシフトしがちだからです。
普段から、意識して(お金をかけて)良い音で再生する環境を揃えるべきです。それが演奏にも、楽器選びにも、絶対に効果的に役立つはずです。趣味としてのオーディオではなく、楽器演奏者のための、練習の一環としてのオーディオ装置として考えるべきなのです。これはプロの演奏家ならなおさらです。
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