アナログレコードの音質が良いと評価されているその理由はたくさんあります。

・アナログレコードを買っていた青春時代の想い出。
・大きなサイズのレコードジャケットなどを取り扱う実感。
・レコードをかけるのに手間が掛かるが故の苦労と、それに反比例する満足感。
・何でも効率化される現代社会への疑問と反動。

 アナログレコードの魅力の多くは、上記の様な「自分の体験や行動」から生み出されるリアルな感覚なのです。

 すなわち、アナログレコードの周波数特性とかの「音響的な要因」は意外と少ないです。なぜそうと言い切れるかというと、我々昔のオーディオマニアからすると、オモチャのようなレコードプレーヤー(レコード針も)を使ってLPを再生して、「アナログレコードって音が良い」と感動している若者がたくさんいるからです。彼等の感じていることは嘘ではありません。しかし、彼等が聴いているレコードの音が音響的に、周波数特性的に優れているとは思えないからなのです。

 すなわち、「アナログレコードの周波数特性が、CDよりも上まで素直に伸びているから自然で音が良いのだ」というのは、あまりにも安直な考え方だと思います。

 それではアナログレコードに音響的な特徴、メリットはあるのか?というと、私は「ノイズ」こそがアナログレコード最大の音響的な特徴だと考えています。

 アナログレコードは、盤面に付いてしまった傷やホコリで、どうしても「プツプツ」ノイズが発生してしまいます。製造工程の盤面プレス時にもどうしてもノイズの元も出来てしまうので、レコードと「プツプツ」は切っても切り離せません。だからCDが出たときに皆、感動したのです。

 しかし、その「プツプツ・ノイズ」、私はとても重要な要素だと考えています。

 例えば、背景が無いようなだだっ広いところである物を見ていると距離感とか方向感覚がわからなくなることがあります。音楽でもこれと似た感覚になるのです。

 純粋にある音(または音楽)だけを聴いていると、その距離感、方向、または音質などが麻痺してくるのです。しかしアナログレコードの場合、幸か不幸か、「プツプツ」がバックグラウンドノイズとして、すなわち背景として自分自身の感覚を、比較の原点に引き戻してくれるのです。

 例えばホールで演奏会を聴くときでも、ホールの中が無響室のようにシーンとしていたら気持ちが悪くなるはずです。空調の音をちょっと感じたり、客席のちょっとしたザワザワした気配が、舞台の音楽をより「リアル」にしてくれるのです。

 このように「ノイズ」はとても重要な要素です。これは我々の社会生活にも全く同じように当てはまります。

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