先日にも書きましたが、現在出回っているジネット・ヌヴーのCDとかLPレコードは、SPレコードの音が元となっています。オリジナル原盤はSPレコードなのです。

 以前にカザルスの無伴奏チェロ組曲でも、オリジナル音のSPレコードの音が、あまりにも情報量豊かで驚いた経緯があったので、これは是非とも「ヌヴーの本当の音」も聴いてみたいと思っていたのです。

 それでSPレコードを入手しました。ジネット・ヌヴー演奏のブラームスとシベリウスのヴァイオリン協奏曲のオリジナル盤です。写真のCDにはブラームスとシベリウスのヴァイオリン協奏曲が収録されているのですが、まさにその「オリジナル」なのです。

 しかしSPレコードの枚数の多さには毎度驚きます。ブラームスのヴァイオリン協奏曲が5枚組で、シベリウスのヴァイオリン協奏曲が4枚組の計7枚です!それがCDでは手の平に乗るたった一枚です。まさに夢の”コンパクトディスク”です。

 早速、ELPレーザーターンテーブルとCDプレーヤーとを同時に再生して、切替ながら聴き比べてみました。

 当然ですが、同じ録音です。再生ピッチも全く一緒でした。ちなみにこのCDはノイズ処理をして聴きやすくしているタイプのCDです。ノイズ処理をしているせいなのか、オケの響きが違います。CDの方が寸詰まりの音がします。なんだか戦前のラジオの音を聴いているようです(私は聴いたことがありませんが、そんなイメージです)。

 オケの音の響きがSPレコードの方がかなり豊かだったので、さぞヴァイオリンソロの音も違うのだろうと期待して聴きました。そうしたら、不思議なことに、ヴァイオリンのソロの音に関してはCDの音と大きな差はありませんでした。CDの方はノイズ処理をしているのに、ヴァイオリンの音はけっこう正確に再現しているのです。

 もちろん細かな比較では、当然SPレコードのヴァイオリンの方が繊細で豊かな響きを感じさせます。音が立体的なのです。しかしこのCDの音もきちんとオリジナルの音を殺さずに再現していると感心しました。

 さて、肝心の「ヌヴーの音」を感じる事が出来たのか?

 保留です。

 

追記
 SPレコードを超音波洗浄機とバキュームクリーニングで徹底的に洗浄して、もう一度聴き比べしてみました。ELPレーザーターンテーブルでの再生においては、この作業の有無で再生音は「一皮むける」と言うのがまさに当てはまるくらいガラリと変わるのです。

 またCDの音と同時再生しながら、切り替えながら聴き比べてみました。

 まず言えるのは、このCDの音質がSPレコードの音ととても似ているという事です。違いはSPレコード独特のノイズの有無くらいの違いです。驚くほど、このCDの音(デジタル化の編集能力)は優秀です。オリジナルの音を変えていません。

 しかし聞き込んでいると、CDの取り去ったのノイズの成分に含まれている「響き」の差が見えてきました。

 CDの音の方が綺麗で聴きやすいのですが、寸詰まりの音なのです。それに比べると、SPレコードの音の方が「普通のヴァイオリンの音」です。「生のヴァイオリン」と言った方が良いかもしれません。古いラジオから流れてくるような枯れた音ではなくて、生々しさを感じることが出来ます。

 もっと聞き込んでいくと、さらにノイズの下の部分の響きを感じる事ができるのかもしれません。

 ただ、このCDの音は優秀です。

 今回、高い出費までしてヌヴー演奏のオリジナルSPレコードを購入して、「ヌヴーを感じる事が出来たのか?」と問われたら、「出来なかった」と言うのが今現在での答えになります(もっと聞き込んだらもっと見えてくる物があるのかもしれません)。しかし、それ以外の部分での収穫はありました。

 全て予想通り、予定通り物事が進まないことが、面白いのです。

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