長年放置されたままだった弓の毛替え作業を行いました。フロッシュの銀部分が真っ黒に変色している酷い状態で、それを丁寧に磨くので一日仕事。さらに、以前にどこかの楽器店で行った接着剤で固定されたクサビを取り外したり、スライド貝の幅を修正したりと、とにかく時間がかかりました。

 そうして2日がかりでようやく毛替えをしてあと少しで終わりというところで、???? クサビが緩んで、馬毛が固定できない。

 なんと、銀の半月リングが割れていたのです。リングを磨いているときには気づきませんでした。どうやら、以前の毛替えの時に、割れているのを承知の上で毛替え作業をしたらしくて、それで接着剤で固定されていたのです。

 それでOrion精密アークスポット溶接機で割れた半月リングを肉盛り溶接して、削って、ようやく毛替えが完成しました。ちなみに、DaDoレーザー溶接機は、今回のような銀素材の溶接にはパワー不足で実質使えません。

 機材の導入には数百万円もかかって大変なのですが、いざという時にこういう機材が役に立つのです。機材を所有していると言うことも、自分の技術力に等しいです。作業料金として、機材代金を全く回収できないのが一番の難しい問題なのですが。

補足:弓フロッシュの金属部分どうしの接合は、基本的には「銀鑞(ロウ)」という、高温ハンダみたいな物で接合されています。従って、弓フロッシュの割れ修理でも、ほとんどの修理者は銀ろう作業で修理しています。しかし銀ろう作業を行うためには、割れた部品全体を真っ赤にバーナーで加熱して、銀鑞(ロウ)という金属(ハンダをもっと硬くしたような銀合金)を溶かして流し込む必要があるのです。しかしそうすると、加熱したために、正常だった接合部分が剥がれてしまったり、薄い金属が変形してしまったり、加熱してした事による部品の変色を再び磨き直すことで部品が薄くなってしまったりと、様々なデメリットもあるのです。

 その点、精密スポット溶接機は熱をほとんど加えませんので、部品の傷みが少ないです。

 だから昔は存在しなかった、小型のレーザー溶接機とか、精密アークスポット溶接機とかの新しい技術を積極的に取り入れて活用するのです。昔ながらの伝統技術で修理することが、いつでもベストであるとは限りません。

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