先日カントゥーシャ作のヴァイオリンを購入してくださった方からの、とても丁寧な感想メールを頂きました。

 その中に、「近くで聴いているとそこまで音量や響きを感じなかったのですが、離れて聴いてみたときに、音量が全く落ちずに、むしろ響きが豊かに感じられることにとても驚きました。」と、書かれていました。

 良い楽器を購入された方から、よく頂く感想なのです。

 なぜ少し離れた方が、音が豊かに感じるのでしょうか?

 私のこれまでの実験からの推測では、良い楽器の発音特性と、周波数特性、ダイナミックレンジに答えがあると考えています。

 そこまで良くない(それが一般的なので、良くないとは言えないのですが)楽器の場合には、発音特性とか周波数特性に、大きな癖(むら)があります。

 例えば、ある音域の音は出やすいのに、ある音域の音は引っ込んでいるのです。こういう楽器の場合、近くで聴いている人は大きな方の音に圧倒されて、楽器の音が出ていると感じるものです。しかし数メートル離れただけで、楽器をより客観的に、俯瞰から聴くようになります。それで、音が出ていない音域の方に耳が向いてしまうのです。

 また、周波数特性的にも、良くない楽器の場合には、周波数特性に癖があります。例えば、高域がビンビン鳴るような楽器の場合には、近くで聴いている人は、その高域の音に意識が行くので、音が出ているように感じます。しかし、数メートル離れただけで、その高域の刺激的な音は届かずに、音が弱く感じてしまうのです。

 音の周波数帯域で重要なのは、連続したバランスの良い中低域(100Hz弱~2KHz位)の周波数帯域なのです。そしてこの比較的低い(?)周波数帯域の音は音が通りやすいのです。良い楽器とはこの周波数帯域の音が、素直に、レスポンス良く、バランス良く出ます。

 さらに、ダイナミックレンジの広さもとても重要です。ダイナミックレンジの狭い楽器は、近くで聴く分には小さな音が聴こえるのでなんら性能の低さは感じません。しかし数メートル離れてしまうと、小さな音が聴こえにくくなるので、狭いダイナミックレンジの音は、明らかに表現力の低さを実感してしまうのです。すなわち音が出ていないと感じてしまいます。

 いずれにせよ、言い切れるのは、良い楽器とは音響的な意味合い(答え?)を持っている楽器なのです。もちろん、「ラベル」とか「価値」とか「雰囲気」とか「一般評価」とか、そういう別の音が確実にあることも事実です。それを否定しているわけではありません。

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