私は良い楽器について、こう説明しています。

・自分が満足できるものが良い楽器であり、それが最終目標でもあります。
・自分の価値観の殻の中では、良い楽器を選ぶことはできません。すなわち、自分で良いと思った楽器が、良いとは限らないのです。

 この二つの説明は矛盾しているように感じるかもしれません。ところが矛盾してはいません。

 

 楽器の話だと少々複雑なので、オーディオの話で説明します。例えば、あるオーディオのセットを買い揃えたとします。私もそうですが、これまでの音よりも格段に良い音になって、大満足するはずです。
 ところが数年経って、他人からのアドバイスなどでの心境の変化とか、購入予算が出来たとか、色々な理由から、オーディオ機器を買い替えた(グレードアップした)とします。そうすると、今まで大満足していた音が、まるで小さな世界だったかのように感じるのです。すなわち、新たな価値観が見えるのです。

 それでは、それまでの自分の価値観が間違っていたのか? というと、私はそうは思いません。

 

 さて、一番最初に書いた二つの、一見矛盾する説明について考えてみることにします。次のグラフを見てください。

 グラフ中の円の中が、現在の自分の価値観だとか満足感だとします。赤線をグイグイと拡大していくと、まるでその赤線は無限に続く直線のように感じる事でしょう。

 しかし、俯瞰から客観的に見ると、水平線だと思っていた線が、斜めの線だったり、または曲線だったりするのです。

 何が言いたいのかと言うと、主観的観測者からは自分の観察点は不動のように感じられるので、自分の価値観も不動だと思いがちです。しかし、俯瞰から自分自身を観測すると、価値観は変化しているのです。この価値観の変化は、未来の自分からしか感じる事はできません。
 ちなみに、今回のように客観的な説明する場では、ある意味お気楽に「俯瞰で」とか言えますが、実際の自分の人生の中ではなかかな自分自身を俯瞰から客観視することはできません。だから赤色の直線が、まるで延々と続く直線のように、主観的観測者となってしまうものです。

 このように、一見矛盾した二つの説明も、決して矛盾しているわけではありません。だから現在の楽器(の音)について、「満足していればそれで良いのでは?」という考え方と、「現状で満足していて良いのですか?」という二つの見方があるのです。

 

補足:上記グラフ中の階段状は、楽器の買い替えの事を指しているわけではありません。何らかの価値観の変化の事を指しています。

関連記事: