今日、学生時代のオケで同期だったお客様が、チェロの糸巻きの緩みの件でいらっしゃいました。
その方は高校のオケの指導もされている方なので、「生徒の楽器で緩みやすい糸巻きの時に、具体的にどうしたら良いのか? そういう時にコンポジションは塗ったら方が良いのか? それとも塗ってはいけないのか?」みたいな質問をしてきました。
糸巻きの動かし方(「こんな感じで」って)だとか、弦をペグボックスの壁際に接触するように巻いていくとかの基本的な事は説明しましたが、それ以上の具体的な事となると、ケースバイケースで、なかなか説明できないのです。
なにも意地悪で説明しないのではなくて、技術的に複雑すぎて難しいから説明できないのです。
例えば、殆どの方は糸巻きの滑り調整と言えば「コンポジション(茶色のクレヨンみたいな)を塗る」事しか考えていません。
しかし我々プロの技術者は、それ以外にも様々な事柄を考慮しているのです。例えば、「滑りやすさ」、「硬さ」、「粘度」、「糸巻きのテーパー」、「糸巻きの楕円度合い」、「糸巻きの直径」、「糸巻きのテーパのえぐれ度合い」、「湿度」、「演奏者の技術力」、「使っている弦の張力」、「修理・調整の予算」、等々・・・。これ以外にもまだたくさんの要素があります。
さて前記の各事柄における要素が、例えばそれぞれで2~3つ有ったとします。そうしたら総要素の複雑さは3x2x2x3x・・・と、数十では済まなくなるのです。
それを具体的に説明できるわけが無いのです。だから技術の修業には時間がかかるのです。
何か疑問点や不具合があったら、ご自分で解決しようとせずに、信頼している行きつけの楽器店(技術者)の所へ駆けつけるフットワークの軽さのほうを身に付けた方が、楽器にとっては一番良いことです。
補足:
もっと具体的に書いてみましょう。
例えばコンポジションを塗る場合、次の様な要素が含まれています。量(付けない, 少量, 中量, 多め, 逆に拭き取る)、位置(先端, 元側)。すなわち、コンポジションの塗り方だけでも10通りの塗り方が存在するのです(実際にはもっと複雑ですが)。これがチョークの場合、石鹸の場合・・・と、塗る素材の併用で(塗らない、拭き取るも含めて)、その組み合わせは膨大な数になるという事はご理解して頂けると思います。