私は昔の巨匠達のオリジナルレコードを高音質再生することで、「演奏が見える」ようになると主張し、そして強くお勧めしています。

 しかし「古い映像」に関しては、要注意です。

 あるお客様がオイストラフの映像を見て、「ボウイング速度がとても速い」と言っていました。

 ところが、とても古い演奏の映像の場合、音楽と映像を無理やり合成したものも多く、違和感が大きいのです。違った録音と映像を部分的にくっ付けていたりすることも珍しくはないのです。また同じ演奏であったとしても、映像と音の同期がずれている映像もとても多いです。

 さらに古い映像には根本的な欠点もあります。

 それは映像の情報量が少ないため、動きが速く感じてしまうことです。例えば4K映像は解像度が高く、しかも一秒間に60コマもの映像が流れます。しかし古い映像だと、解像度が低いだけでなく、コマ数も一秒間に16コマとか24コマ(または30コマ)とかとかしか流れません。

 古い映像は一秒間の情報量がとても貧素なために、ボウイングが速く感じてしまうのです。例えば、歩いて向かってくる人を撮影した場合、古い映像だと、遠くにいた人が次のコマでもう目の前に来ている感じです。

 逆の事も言えて、4K映像で観る演奏姿は、まるでスローモーションのように見えるのです。それは人間の脳が、その情報量を処理できる能力を持っているからなのです。

 だから古い映像をあまり模範にしてはいけません。それに対して「音」の方が本質を表しています。なぜなら映像技術よりも録音技術の方が早くから完成、熟成していたからです。

 私がレコードの紹介はしても、映像DVDの紹介はほとんどしないのは、こういった理由があるからです。もちろん歴史的な資料としての価値はあります。しかし、古い映像を、即、現実の演奏と直結して理解するのは危険です。

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