「理にかなったヴィブラート」とは、楽器が縦方向にブレない、指板の向きに沿った「弦長変化(=ピッチ変化)」奏法です。イメージとしてはこんな感じです。

 ところが、この「理にかなったヴィブラート」って、単独では実現不可能なのです。真の意味での性能の良い弓、すなわち弓竿の腰が強い弓で、自然な圧力が掛かったボウイングとペアで、初めて実現できるのです。

 例えば、多くの演奏者が良いと思い込んでいる、ペコペコなオールド弓(新作でも多くがペコペコです)で演奏すると、弓毛を張り気味にして(弓竿と毛が平行になる)、弓を高度にコントロールして(と、勘違いしているだけ)、弦を軽やかに撫でるような演奏になります。

 このような演奏では、例え理にかなったヴィブラートを行ったとしても、実際には「理にかなった」とは言え、演奏によって僅かな上下の微振動が起きてしまうので、それが原因で弓が跳びはねてしまうのです。
 腰の弱い弓を使っている人のボウイングは、ヴィブラートをしなくても弓が跳ねてしまうので、ヴィブラート操作をしてしまうと、さらに飛び跳ねが酷くなります。

 またその逆に、弓の性能が低い弓によるボウイングは、弓が跳びはねてしまうので(震えてしまうので)、それが理にかなったヴィブラートを壊してしまうのです。カッカッカッと、いう音になってしまいます。

 一方、真の意味での良い弓で演奏する場合、自然な一定の圧力が弦にかかり続けます。そうすると、理にかなったヴィブラート奏法の中で僅かな微上下振動は生まれたとしても、それを上から自然に押さえて、摩擦力が途絶えないのです。だから美しい、艶のある音がでるのです。

 音の本質は「物理」であり、それを考える上で一番重要なのは「モデル化」なのです。

 

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