弓竿の材料「フェルナンブコ材」が入手困難になっているのはご存じと思います。特にその中でも「良質なフェルナンブコ材」、もっと言えば、「良質で高性能なフェルナンブコ材を使って製作された弓」は希少品となっています。
だから良質な弓は、例え無理をしてでも今購入しなければ、大損なのです。今ならまだ入手可能だからです。
ここまでの話はいつも言っていることです。
ところが入手困難になっているのは、良質な馬毛も同じなのです。
10年以上前には当たり前に手に入った品質の馬毛が、今は手に入らなくなってしまいました。だから毛替え作業も、以前よりも念入りな精毛・選毛作業(悪い毛を捨てる作業)を行って、手間も材料費もかかるようになってしまいました。
なぜ良質な馬毛が入手困難になったのか、私が馬毛業者さんから聞いた情報とか、私の推測では次の理由によると思います。
・馬の飼育者(遊牧民なども)が減少している。
その理由は、収入がすくなかったり、不安定だからだと思います。馬を飼育するよりも、都会に出て会社員をした方が収入もあるし、安定した生活が送れるのです。これは世界共通の悩みです。
・世界の自然環境の悪化。
世界の人口は爆発的に増えています。私が小学生の頃には世界の全人口は36億人と教わりましたが、2024年現在の情報では81億人だそうです。すなわち人口増加とそれに伴う社会構造変化によって、森林や牧草地が減少しています。それに加えて地球温暖化によっても、牧草地が砂漠化して、馬を飼育する環境は悪化の一途です。
・日本の経済力の低下
以前の日本は世界的にも経済力が強かったです。だから良質な馬毛は日本に集まったのです。ところが現在は、希少な良質馬毛は日本を素通りしてしまっているのかもしれません。
このように悲観的な状態ではありますが、我々、弦楽器技術者も自分の技術を追求することで、努力を続けています。だから皆さんも、皆さんが大切に思ってお世話になっている技術者や店を、贔屓にして、そして自分のために高度な技術を発揮できるように手伝って上げてください。
それは何も私の事を言っているのはありません。皆さんの大切な人(店)のことです。
これから最も希少になるのは、「人(=技術)」なのですから。
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