演奏家でヴァイオリン(またはチェロ)の構造的な事も知らないのに、色々と間違った情報を語っている人がとても多いのです。
先日にも、「馬毛のキューティクルで弦を引っかけて発音している」と説明している人がいました。これって、あるあるの誤情報です。
おそらく、電子顕微鏡で撮影した人間の髪の毛(または馬毛)の写真を見て、「ザラザラしていて引っかかりそう」という先入観から、そう思ってしまったのでしょう。
なぜ私が「馬毛のキューティクルで弦を引っかけて発音しているのではありません!」と主張しているのか、その理由を書いてみましょう。
1.馬毛の向き
一般的な毛替えでは、馬毛の根元をフロッシュ側にして、馬毛の毛先を弓竿側にします。
間違った情報を信じている人は、ボウイングのアップの方が圧力を掛けにくいから、キューティクルの向きをアップボウで引っかかりやすい向きに毛替えしていると説明しています。しかし、それならば、ダウンボウでは滑ってしまうはずです。これはキューティクルで発音しているわけではないという理由のひとつです。
ちなみに、馬毛の向きを、馬毛の根元をフロッシュ側にして毛替えする理由は、馬毛の根元の方が毛が太いからなのです。フロッシュ側の方がボウイング時に大きな圧力や衝撃が加わりやすいので、毛の太い側をフロッシュ側にした方が、毛が切れにくいのです。
2.松ヤニを塗らないと、ツルツル滑る
毛替えしたばかりの、松ヤニを塗っていない(または少ない)馬毛でボウイングした経験はあると思います。ツルツルだったはずです。これも、キューティクルで弦を引っかけているわけではないという理由のひとつです。
3.馬毛のキューティクルは人毛ほどザラザラしていない
先の2例から、馬毛のキューティクルで弦を引っかけてはいないという事が判って頂けたと思います。さらに、私が実際に馬毛を顕微鏡撮影して観察したところ、馬毛のキューティクルは人毛ほどはザラザラしてはいないのです。その理由は、馬毛自体の特徴なのか、または馬毛を洗浄+脱色(馬毛によります)する時に削られてしまったためなのか、その両方の理由なのかもしれません。
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