少し前、あるチェロ奏者の方と、弦の特性(張力)と響版のドライブ(加振)の話になりました。
というのは、そのお客様がご自分でチェロのC弦をスピロコアのタングステンに交換してしまっていたからなのです。
本人は、「Cの音をもっと出したかったから、発音しやすいスピロコア・タングステンを張った」との事でした。
チェロに限らず、多くの演奏者は、弦が大きく振れる(=ボウイングで食いつきの良い)弦が、大きな音が出ている物だと勘違いしています。しかし、そう単純な物ではありません。
弦の振動のしやすさと響版のドライブは単純に比例しないからです。
私はそこで、自転車を例にあげて説明していました。
例えば、自分が小学生だった頃、初めてギア付きの自転車を買ってもらった時の事を思い浮かべてください。
自転車初級者は、軽いギア(比)に魅力を感じて、ペダルをグルグル回して、「ウオ~!、速い!!!」って感動します。しかし、今になって考えてみたら、そんな漕ぎ方では自転車のスピードは遅いです。
一方、ロードバイクに乗っているような自転車上級者は、重いギア比で、ペダルからの重さ(抵抗)を感じながら、ペダルにぐっと力を加えます。こうすることで、強い力が車輪にかかり、自転車はぐいぐい前へ進むのです。
弦楽器もまさにこれと同じなのです。
響版をドライブするためには、響版からの反作用(抵抗)を感じる必要があるのです(ちなみに、その響板からの抵抗感に対してドライブするのに必要なのが、真の意味での良い弓による「圧力」です)。だから、軽々と発音できるような弦を張ることが正しいとは言えないのです。
演奏者はどうしても、主観的に物事を考えがちです。しかし、それでは良い音は出ないのです。重要なのは、客観性と技術的な根拠です。