先日私の工房で性能の良い弓を購入してくださった方が、次にヴァイオリンの本格的な調整を行うために楽器を預かりました。しかしそのヴァイオリン、なぜかニスが全て塗り替えられていて、とても安っぽくなってしまっていたのです。ニス塗りの技術レベルも下手だし(塗りムラがあるとか、そういうことではありません)、「なぜ塗り替えたのだろう? 暑い下に楽器を置いて、熱でニスが泡ふいてしまたのかな?」と、想像しながら調整をしたのです。
楽器の音の仕上がりは予定通りうまくいったのでお客様も満足してくださったのですが、ついでにニスの事を尋ねてみました。そうしたら、そのお客様の希望でニスを「全剥がし+全塗り替え」したらしいのです。もとのニスの表面のヒビが酷くて、見苦しかったからとのことですが、基本的はそのような「全塗り替え」は行うべきではありません。
また、安易にそのようなニス塗りを引き受けた業者のレベルも知れたものです(事実、塗り替えられたニスは雰囲気も何も考えられていない低レベルのものでした)。
なぜ塗り替えてはいけないかというと、別に音が悪くなるとかいうことではなく、見た目の雰囲気の問題です。オリジナルの雰囲気、楽器の年代の雰囲気を消し去ってしまうからです。
例外として次の様な場合には別です。
・元のニスが修正不可能なくらい余りにも酷すぎる場合。
・新作楽器を、その同じ製作者が塗り替える場合。
・とても高度な技術をもつイミテーション製作者が、ニスを塗り替える場合(ただ、そのような人が安易に塗り替えをするとも思えませんし、もし引き受けたとしても料金も高いことでしょう)。
お客様にこのような指摘をしたところ、「佐々木さんがもう一度塗り替えてくださりませんか?」とお願いされたのですが、もちろんお断りしました。ニスの全塗り替えなんてとても手間が掛かる作業で、まして他店で購入して、さらに他店で変な感じにしちゃった楽器にそこまで付き合っていられないからです。もちろん私の工房でお売りした楽器に関しては、徹底的に面倒を見ますが、それでも「ニスの全塗り替え」を頼まれたら、きちんと説明をした上でお断りすることでしょう。