2ヶ月前に当工房に入門した川口君は、技術的に年齢的にもまだ真っ新なため、毎日が勉強です。おそらく、毎日新たな発見をしていると思います。私の方も、自分の仕事の合間に、その仕事の内容について、できるだけ説明をするようにしています。

 この1週間はずっとチェロの調整に掛かりっきりでした。川口君にも手伝える課題を意識的に与えて、プロとしての実戦技術も教え始めています。

 テールピースを丁寧に削らせて軽量化したり、さらにアジャスターのネジの長さまで短くして微調整します。他にもエンドピンの角度修正の意味や、エンドピンの剛性と楽器のぶれ、そしてそれに伴う音色の変化についても教えました。もちろんそれ以外魂柱位置や指板など様々な調整についても、説明しました。

 そしてようやく調整がほぼ完了して、調整前と比べての弾きやすさの向上とか、音のレスポンス、音量の向上などについて説明したのですが、川口君も「なるほど」と納得しながら試奏しました。

 そして最後に私が、「本当は、お客様が購入予定のこの弓で弾くと、初めて今回の調整の本当の意味が判るはず」と言って、その弓で楽器を弾かせました。そうしたら、「おおっ!全然違う!」と、驚きました。
 言葉(説明)だけでもなく、楽器だけでもなく、そして弓だけでもなく、調整も含めた一貫した筋の通った「技術(販売技術も含んでいます)」こそが、結果を生むのです。

 川口君は私のそばで、私がお客様に説明するのを聞いているので、言葉としては「一貫した筋の通った調整」とか「弓の重要性」とか「調整の理論」とかの言葉を知っているのですが、今回初めて調整に関わって、そして実際に音の違いや弾きやすさの違いを体験して、初めてそれらの意味を、特に「一貫した」という意味を理解したことでしょう。

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