時々、私の工房にはじめていらっしゃるお客様で、「先生から『弦に圧力をかけたら音の響きを殺してしまう』と指摘される」と言われる方がいます。実際に、弦の表面をそっと撫でるような演奏をしている方をとても多く見受けます。

 しかし、そんな演奏は全くの見当外れですし、そのような「弦に圧力をかけたら音の響きを殺してしまう」という考え方も物理的にナンセンスです。

 なぜ「弦に圧力をかけたら音の響きを殺してしまう」という考え方が間違っているのかを考えるためには、次の2つの事柄を考えてみればよいのです。

1.弦の響きを殺さない演奏があったとしたら、その演奏に圧力はかかっていないのか?
 弦に一切触れずに念力で弦を振動させることができるという人がいれば話は別ですが、もちろん、圧力なしに演奏は不可能です。そしてさらに、「この大きさまでの圧力なら響きを殺さず、これ以上の圧力なら響きを殺してしまう」という明確な数値の境界線も存在しません。すなわち、「圧力」そのものの有無や大小が響きを殺してしまうわけではないのです。

2.弦の振動を阻害する要因とは何か?
 これを考えるためには、意識して弦の振動を止める操作を考えてみれば良いのです。話は簡単です。ボウイング中に弓の動きを急に止めればよいのです。そうすれば、弦の振動はストップします。それでは弓の運動を止めたことによってどのような物理的な変化が起きて、結果的に弦の振動を阻害したのか? それは弦と弓との間の摩擦力に変化が生じたために、弦の振動が阻害されたのです。

 こんどは上記の2つの要素を反対から考えてみてください。

 すなわち、弦と馬毛との間に生じる摩擦力が一定であれば、弦の振動(響き)を阻害することはないのです。もっと具体的に言うならば、「弓の運動速度と圧力が一定であれば」摩擦力も一定となり、弦の振動を阻害することがないのです。そして摩擦力の大小によって、弦の響きを妨げることもないのです。だから美しいPPも、美しいffも存在するわけです。

 それではなぜ先生が「圧力をかけたらいけない」と言ったのか? それはおそらく先生の弓の性能が悪く(値段が高くても酷い性能の弓がほとんどです!)、弓をコントロールしているからなのです。「コントロール」するということは、一見高度な技術のように思われるかも知れませんが(実際、高度な技術を必要とします)、実は演奏の本質においては必要な事ではないのです。単に、性能の低い弓で弾いている人にのみ必要な高等テクニックなのです(演奏の本質とは、壁に自然体でより掛かるような演奏ですので参考にしてください。また、こちらも参考にしてください)。

 このように、上手な演奏者でさえも判っていないというか(自分の能力さえも知らないのです。本当はもっと凄い人なのです!)、弦楽器界が科学的な考察を無視していて、オカルト的な世界になっている証拠でもあるのです。

 もっと上手になりたい方、自分の壁を越えたい方、実際に良い音を確認したい方は、是非私の工房でお勧めしている弓や楽器の試奏にいらしてください。おそらく、価値観が変わると思いますよ。私は嘘やはったりでこんな面倒くさいことを書きませんから(こんな事を書いては、セールス的には逆効果だと言うことも知っていて、しかしあえて本当の事を書いているのです)。

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