「葉書の理論」というのは、私が勝手に付けた理論なのですが、楽器の製作精度と音の関係を説明するための重要な考え方なのです。

 多くの方は、製作精度というと、楽器の外観の美しさをイメージすると思います。それはその通りです。製作精度の高い楽器は、外観も美しいです。

 しかし、製作精度の高さは、外観だけでなく、音にも確実に影響するのです。それが「葉書の理論」です。

 葉書は、一見頼りないくらいとても薄い紙です。しかし、葉書を曲げてみてください。そんな薄い紙なのに、折れないのです。その理由には、物理学的な根拠がちゃんとあって、葉書の均一な厚さの精度が、力を分散させるからです。すなわち、曲げの力が一点に集中しないので、葉書は折れないのです。
 しかしその葉書に、ナイフなどで軽く、眼では確認できないくらいの深さの傷を付けると、その部分から折れてしまいます。

 この仕組みは、楽器においても全く同じなのです。楽器は葉書のように均一な厚みで出来ているわけではありませんが、ある構造体を形成しています。その構造体を、大きな外力(弦の張力など)から数十年間(場合によっては200年以上も)維持する構造が必要になるのです。

 多くの楽器の製作精度は、拡大して観察すると凹凸が酷い状態です(表面がツルツルしているとかの話とは、ちょっと違います)。これはすなわち、葉書に傷が付いているようなものなのです。

 すなわち重要なのは「製作精度」なのです(正確に言えば、「製作理論」も不可欠です)。これが、「葉書の理論」なのです。

 事実、良い楽器とピンボケの楽器との劣化の差は、たった数年で大きく違ってきます。

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