多くの方(特に自分が楽器の目利きが出来ると自信のある方)が勘違いしているのが、良い楽器の音の出方の特徴なのです。
かるく弾いて、音が「バーン」と出るような楽器が良いと思い込んでいるのです。もちろん、音が出ることはとても良いことではあるのですが、問題なのは、それ以降の話のです。
ほとんどの、そのような楽器って、それ以降の音が出ないのです。弓竿の腰の強い良い弓で弾いたときの話です。
本当の意味での良い弓で弾くという前提ですが、良い楽器って、かるく弾いたときには意外なほど音が小さいです。ところが、弓の圧力をかけて弾くに従って、それにリニアに反応するような音量を見せるのです。そして、グンとした最大の圧力をかけた演奏を行ったときも(良い弓への慣れと、技術がないとなかなか出来ないのですが)、「おおっ、この楽器にはここまでの深さがあるのか!」と感心するくらいの音を持っているのです。すなわちダイナミックレンジです。
一方、多くの方が良いと思い込んでいる楽器の特徴(または調整の特徴)って、最初から簡単に音が出てしまい、そしてさらに音を出そうとしても、それ以上は出ないのです。ダイナミックレンジがとても狭いのです。私は「音が飽和している」という表現をしたりします。
なぜこのような楽器が良い楽器とされるのかというと、弱い弓で弾くことが前提になっているからです。だから、弦にかるく触れただけで、音が出るようなタイプが好まれるのです(弦の種類や調整の傾向も含めて)。そして、それ以上の大きな圧力で弾くこと自体が物理的に不可能なために、そのようなダイナミクスは全く求められることもありませんし、出なくても不満に思われることもないのです。
何度でも言いますが、楽器の購入(グレードアップ)以前に、良い弓を手に入れる事が本筋です。
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