私は学生時代から、過去の巨匠達のレコードやCDを買わないように意識してきました。

 その理由は、一つは、私が学生時代から一貫して、演奏マニアではなくて音響マニアか楽器マニアだったからです。だからノイズまみれの古い録音を聴くよりも、最新のHiFi録音盤を好んで聴いていたからです。当時のPCM録音盤なんて、素晴らしいと感じていました。必然的に、聴く演奏家も現役の演奏家ばかりでした。

 もう一つの理由は、どちらかというとこちらの理由の方が大きかったと思いますが、「昔の演奏家は良かった」という人を胡散臭く思っていたからでした。そういう人は大体「それに比べて今の演奏家には・・」というのです。これはオールド楽器信者とも共通しています。「結局は、ネームバリューなのでしょう?」って。

 ところが私も歳を重ねて、受け入れる懐が深くなったのか、若いときのような感受性が低下してきたのか、何でも素直に聴けるようになったのです。それこそ、以前は拒絶、排除さえしていた「ノイズ」さえも、最近は大切な要素だと思えるようになったのです。

 そうして素直な気持ちで、巨匠達の演奏を聴くと、やっぱり凄い人たちなんだなあって、驚きます。しかし、現代の(現役の)名演奏家達が、過去の巨匠達に劣っているとも、一切思えません。

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