私がこれまでに何度も、「使っていない楽器は、弦を緩めて保管しておきましょう」と主張しているのに、弦を張りっぱなしで長期保管して、知らない間にこのように壊してしまう方がとても多いのです。

 このヴァイオリンの場合にも、ネックと裏板の接着部分が剥がれてしまい、結果的に弦の張力で楽器自体に歪みが出てしまっています(ちなみにこの写真の様に響板やネックが剥がれてしまうとトラブルの他にも、指板が外れてしまうというトラブルも多いです)。指板も大きく下がってしまっています。楽器が歪んでしまうと、修理も困難になってしまいます。なんなるニカワ剥がれとは深刻さが異なるのです。

 これは弦を張りっぱなしにして長期間保管して置いたことが原因のトラブルなのです。

 しかし、なぜそうしてしまったのか? 私が口を酸っぱくして忠告しているのに、または弦を張りっぱなしにして保管してはいけないと頭では判っているのに、なぜ多くの方が、そうしてしまうのか? その理由はわかります。

 それは、ご自分が以前に使っていた楽器に思い入れがあり、大切に思っているからそこなのです。

 より高性能な新しい楽器にグレードアップした時、以前に使っていた楽器への方が思い入れは大きいです。だからほとんどの方は、「以前に使っていた楽器も、時々は弾いてあげよう」と決意するです。

 ところが、現実には、楽器の性能差は想像以上に大きく、一旦性能の高い楽器を知ってしまうと、なかなか性能の低い楽器をあえて弾こうとは思えなくなってしまうのです。ただでさえ、演奏の時間を確保するのは厳しいのですから。

 そうすると、以前に使っていた思い出深い大切な楽器に対して罪悪感を感じてしまい、ケースの中を開けたくない、見るのが怖いという逃避行動に走ってしまいます。

 それで弦を張りっぱなしにしたまま、長期間点検もせずに楽器を保管しっぱなしにしてしまうのです。それで、何かの機会にケースを開けてみて、そこで始めて事の重大さに気づきます。

 そんなことにならない内に、想い出のある大切な楽器だからこそ、弦はゆるゆるに緩めた状態で保管しておきましょう。

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