特にチェロ所有者に多いのですが、乾燥対策として、楽器内部を強制的に保湿している人がいます。そういう製品も存在します。

 またはチェロ以外でも、楽器ケース内を強制保湿している人も多いです。ケースにそういう保湿グッズが附属していたりもするので、そうするのが正しい使い方と思い込んでいる方も多いと思います。

 しかし、楽器を直接保湿する行為はとても危険です。特に、楽器内部を強制的に保湿してしまうのは楽器の故障にも繋がりかねません。

 その理由を簡単に説明しましょう。

 例えば、二枚のシワの寄った紙を用意してください。一枚はそのままの状態、もう一枚には霧吹きで水分を軽く拭きかけてみてください。そうして、ドライヤー(冷風)で強制乾燥させてください。

 おそらく、一旦霧吹きで湿らせた紙は、紙が縮んでパンパンに張ったと思います。これは障子張りで使うテクニックです。

 何が言いたいのかというと、最終的には同じ室温の湿度に落ち着く二枚の紙でも、最初に強制保湿をした物と、していない物とでは、最終的な状態が変わるという現実についてです。

 これは木材でも全く同じです。木材表面に軽めに加湿してから強制乾燥すると、木材表面は大きく縮みます(木材が変形します)。これは我々製作者、技術者が使うテクニックでもあるのです。

 楽器内部を強制的に保湿していたその楽器を、ケースから取り出して演奏した途端、楽器内部の空気は急激に入れ替わってしまします。これはドライヤーの冷風で強制的に風を当てたのととても似た状態なのです。

 そうすると、良いつもりで保湿行為を行っていたのが仇となって、楽器内部の環境に急激な変化が生じて、木材が大きく変形します。最悪、響板が割れたりするかもしれないのです。

 「加湿」や「除湿」という行為は、楽器から離れた距離を広範囲に行うのが理想です。すなわち、楽器内部だとか、ケース内部の操作をおこなうのではなくて、部屋の管理を行うのが理想です。

 楽器に対して、大きくて急激な環境変化を与えないのが重要です。これはケースの肉厚などの要因も大きく関係してくることです。

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