少し前の事ですが、工房のお客様からご自分のお子さんのヴァイオリンレッスンについて、ちょっと質問を(質問というよりは雑談程度)受けました。
お子さんの先生から、さかんに「全弓を使って弾くように」との指導を受けるとの事でした。そこで「全弓を使って弾く意義」についての会話となったのです。
というのは、そのお客様は、私が「真の意味での性能の良い弓は、圧力を掛けて、スピードを落として、駒寄りを弾くことで、弓量をさほど使わなくても朗々とした大きな音が出せる」と主張しているのを理解しているからです。
あくまでも私の推測ではありますが、おそらく、「無理して全弓を使って演奏する事よりも、きちんとした摩擦力を保った状態の、きちんとした音を出すこの方が意味があるのでは?」という疑問なのだと思います。もっと判りやすく言えば、「擦れたボウイングで、全弓を使った練習をしても良くないのでは?」という質問なのだと理解しました。
その場で、私は「その先生の全弓を使うようにという指導は、きちんと意味がありますよ」と答えたのですが、上手に説明できなくて、お客様が帰られた後もずっとモヤモヤした状態でした。
改めて質問に対して返答するならば、「全弓を意識的に使ってボウイングする練習」と、「圧力をかけて、スピードを少し押さえて、摩擦力を十分に保った状態で弾く」のとは、別の話しという事です。
例えば、普段から弓の中央部分でしか練習していない人は、いざ弓先まで使ってボウイングしようとしても、身体が動かないのです(本人は弓先まで使って弾いていると思い込んでいますが)。普段からそのような意識付けが必要なのです。特に子供のレッスンにおいては、「全弓を使って!」という指導は重要です。
それでは、「擦れたボウイング(極端な例としてスルタストのような)の全弓ボウイングに意味があるのか?」というと、それは別問題です。きちんと圧力を掛けた上での、全弓を使ったボウイウングが理想です。
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