多くの方は、「楽器を鳴らす」というと、「弦を大きく振動させる」ことだと思っているようなのです。決して間違いでは無いのですが、誤解しているのです。

 「弦を大きく振動させる」という事を表面的に捉えすぎていて、とにかく弦の振幅を大きくするために、指板寄りを、弓のスピードを早くボウイングしているのです。特に弓の性能が低い人に多く見かける奏法です。

 しかしこうした「表面的な演奏」では、弦の見かけ上の振幅に反して、意外なほど楽器の音は出ません。肝心な駒がドライブ出来ていないからです。現時点で、その「駒がドライブ出来ていない」という仕組みを解明した訳では無いのですが、私はおそらく次の二点がポイントとなっているのでは無いかと想像しています。

 駒寄りを、(あまり圧力を掛けずに、または圧力を掛ける事のできない低性能の弓で)弓のスピードのみでボウイングすると・・・、
1.倍音成分が含まれないので、その分だけ駒がドライブされていない。
2.圧力を掛けないで弦をスピードだけで演奏すると、弦が横方向だけの振動となり、効率よく駒をドライブできない(補足1)。
3.これは演奏時の弓に受ける抵抗からの推測ですが、指板寄りを低圧力で高スピードで弾く奏法と、駒寄りを高圧力で低スピードで弾く奏法とでは、弦の振動の節が駒位置に対して違うように感じます。極端に表現するのなら、指板寄りをスルタスト気味に演奏すると、弦の振動の節が駒位置に近くなり、結果として駒が振動しにくくなるように思えるのです。現時点では、あくまでも推測ですが。

 このように、楽器の胴体を鳴らし、しかも豊かな倍音成分の含まれた音を出そうとしたら、指板寄りを、(弓の圧力低く)弓の速度を早く演奏しても、原理的に音を出すことは不可能なのです。

 だから、しつこいようですが、「真の意味での、性能の高い弓」が必須なのです。これは演奏技術以前の、準備段階の話です。逆の事も言えて、どんなに高い技術を持ってしても、原理的に解決できることではありません。

 

補足1:ギターの弦を指で摘まんで、響板に対して真横に引っ張って、指を離してみてください。すなわち、弦の振動を響板と平行に振動させてみてください。そうすると、発音した音が小さいのに驚くはずです。
 普通にギターを弾くとき、一見すると響板に対して平行に弦をはじいているように見えますが、実際には縦方向の(正確には斜め方向の)加振を行っている証拠です。ヴァイオリンの駒のドライブ原理は、魂柱の仕組みなどもあって、ギターと同じ訳では無いのですが、このような「縦方向の加振」という要因もあるのかもしれません。

関連記事: