先日、お客様と調弦の話題になりました。要約すると「どの弦のどの倍音を意識して、4弦を調弦すべきなのか?」という内容でした。また以前にも、別のお客様からも「弦楽器の調弦は何律で調弦すべきか?」みたいな質問を受けたことがあります。

 確かに、机上での理論的には、「何律」とか、「どの倍音を」とかの、理論があるのかもしれません。

 しかし、私がこれまでに接してきた「上手な演奏者」で、そのような「理論」を主たる基準として調弦をしている人はいませんでした。そのような事を言うのは主にアマチュアの方です(プロのチェンバロ奏者の「拘り」の話は以前に聞いたたことがありますが)。

 それでは上手なプロの演奏者が何を基準にして調弦をしているのかというと、「楽器全体の響き」です。言葉でも、理論でも説明できないほど微妙な「全体の響き」を基準にして、調弦をしています。だからほとんど全ての演奏者において、微妙に調弦の特徴が出るのです。すなわち、2本の開放弦の音だけを合わせているわけではないわけです。

 それは、誰の調弦が正解とかの話ではなく、その演奏者が、自分の楽器の響きの特徴と、自分の演奏目的とを総合的に考えたうえで、もっとも「はまる」音程を求めているのでしょう。

 皆さんも色々な演奏者の調弦を観察してみてください。皆違いますから。また、ある奏者が調弦した楽器を別の奏者に渡すと、必ずと言って良いほど調弦をし直します。おそらく、しっくりこないのでしょう。

 さて話を戻します。

 調弦において一番重要なのは、「5度を確実に合わせられる、調弦の技術力」と「5度を正確に聞き分けられる聴覚」です。この二つの力が無ければ、それ以降は机上の空論でしかないです。アマチュアの能書きと言われても仕方ないでしょう。簡単にできそうで、そうそう簡単にできることではありません(音の悪い楽器ではなおさらです)。

 次に行うのは、楽器の総合的な響きを考慮した上で、先に完璧に合わせた5度をほんの僅かにずらす行為です。「ずらす」とは平均律の事を指しているわけではありません。合わせた5度を狂わせる行為というよりも、「全体の響きの中でより”はまる”音程に合わせる」行為です。この部分が人によって、楽器によって異なるのです。

 最後に私が強く主張したいのは、「本当に良い楽器の響き」は、良い調弦や良い音程を生むと言い切れる事なのです。楽器の響き(性能)によって、音程だとか、調弦って、まるで違って感じるのです。

 私のお勧めしているカントゥーシャ作の楽器の所有者は、皆、私が何を言っているのかを理解してくださると思います。

 良いチェロを探している方は、是非、今在庫のあるカントゥーシャ作のチェロを試奏してみてください。調弦をしただけで、私が「総合的な響きから」と言っている、その意味が判って頂けると思いますよ。音色の好みとかって、その後の話なのです。

補足:良い音の楽器(全周波数帯で素直な音が出ていて、レスポンスが良く、ダイナミックレンジの高い楽器)は本当の意味での調弦が出来たり、音階のツボが見えます。しかし逆の事も言えて、悪い調弦を行うと、明らかに楽器の響きが消えるのが判りますし、また音程が悪いのも明らかに感じることができます。

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