音の調整というと、感覚的なものと思っていらっしゃる方が多いと思います。

 しかし、感覚って、何だか一見格好いい言葉に感じますが、何の根拠も説得力もありません。言い訳にだって使えます。

 それでは音の調整をする上で一番重要な物は何かというと、「音響」の理解と、「発音構造のモデル化」の理解です。さらにそれらを確実に実行できる技術力です。

 例えば、魂柱を動かして音を変化させるというのでしたら、弦楽器技術者を名乗っている人なら誰にでも出来ることです。しかし、音の変化というのはプラスの側面とマイナスの側面が出ます。各所の調整でベクトルの向きと大きさが異なって出るのです。

 例えばルービックキューブの達人は、高速にクルクルと適当に回しているかと思ったら、ある瞬間に6面がピタリと揃います。
 しかしそれは偶然でも、マジックでもなく、適当に動かしているようでいて、実はちゃんとある仕組みに沿って確実に動かしています。だから6面が揃うのです。
 弦楽器の場合にも同じです。さすがにルービックキューブのように6面が完璧に揃うことは不可能ですが、考え方としては同じなのです。

 それらのベクトルを理論的に理解して、総合調整するのが、真の意味での「良い音の調整」です。 例えば私が「弓の性能が最重要」と言っているのも、その考え方なのです。決して営業的な理由からではありません。

 技術者とは、単に技術職人というだけでなく、楽器(弓も)の総合プロデューサーでもなければならないのです。

 だから常に、昨日の自分を越えるための勉強(向上心、好奇心)が必要なのです。

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