駒の位置がずれている事を指摘すると、「そんなはずはない。自分は駒を触っていないから、前からこの位置だったはずだ」と、逆に反論されることがあるのです。プライドが高い方は、何かを指摘すると第一声が「そんなはずはない」なのです。これって、”あるある”の会話です。

 別にお客様の管理を責めているのではありません。現状がズレているという事を指摘しているだけなのです。それが私の仕事なのですから。

 さて本題です。駒の位置が自然にずれることってあるのか?

 まずは「自然に」という部分が、「本当に自然に」と、「気づかない内に」との二パターンが存在することです。

1.自然に動く場合
 新作楽器でニスが柔らかい場合(古い楽器でもニスが柔らかいこともあります)、地滑りのように駒がズレてしまうことはよくあることです。また、楽器の表面が滑らかで、ニスもツルツル(ピカピカ)の楽器でも駒は滑ってズレやすいです。
 所有者の無意識の内に、駒が傾いたまま使っていることも多いです。こういう状態で、さらに調弦を頻繁に繰り返した場合に駒が自然とズレることがあります。または自分で弦を交換したときに、駒が傾いてしまって、結果的に駒が自然とズレる事もあります。

2.気づかない内に動く場合
 例えば、注意していても駒に手が当たってしまったりする事はあり得る事です。コツンと軽く衝撃を与えてしまって、本人は駒が動いていないと思っていても、瞬間的に駒がズレる事はあります。駒には弦の張力がかかっていますので、その張力が僅かに中心線からずれた楽器(センターが僅かにズレている)の場合には、駒が簡単に動きやすいのです。
 同じく、自分で弦を張り替えたときにも、本人は駒をずらしていないつもりでも、ズレてしまうことも多いのです。

 我々プロの技術者は駒の位置をきちんと把握していますし、それを修正する技術も持っていますので、すぐに違和感を感じる事ができるのですが、所有者はその違和感に気づかずに「そんなはずはない」となってしまうのです。

 だから他人(専門家)の眼が必要なのです。

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