多くの方って、毛替えと弦交換作業って、大した技術は必要ないと思っているみたいです。特に弦交換作業に関しては、自分でも簡単にできる内容と思っている方が多いのです。
だから「今、この場で」って言われたり、「明日までに」って依頼も多いです。もちろん、お客様の緊急性とか、色々な都合もありますから、可能でしたらお受けします。
ただしデメリットも多いという事を理解して頂きたいです。
一つは、「それ以外の修理・調整箇所があっても手が出せない」という事です。だから私も、よほど深刻な破損でも無い限り、細かい部分は見ないようにします。なぜなら、気がついても時間的に作用できないからです。また、お客様側も、そのような調整は求めていないという事もわかっているからです。もちろん、深刻な破損箇所の場合には、話は別です。
もう一つは、弦の伸びに関してです。とても地味な内容ですが、これもとても重要です。
最近の弦、特にピラストロー社の弦は、弦を張ってからの伸びが大きいです。だから弦を張ってから数日間、糸巻きで何度も調弦を行う必要があります。
この時に、駒が弦に引っ張られて倒れてしまうのです。
私が数日間の余裕をもって弦交換作業を行うときには、必ず駒の角度も修正しながら弦の調弦も行います。しかし、時間的猶予が無い場合には、楽器をお渡ししたその時には駒の角度は正しいのですが、その後の状態がどうなったのか、私には把握できないのです。
だから人によっては、駒が前倒れになった状態で弾き続け、それを毎回行うことで、駒の腰が曲がった状態に癖が付いてしまうのです。
このように、調整って簡単なものではありませんので、可能な限りの時間的余裕を作って依頼した方が、最終的に自分の楽器の状態に帰ってきます。もちろん、一回だけ緊急にとかでしたらかまいません。しかし毎回だと良くないのです。
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