私はずっと、ヴァイオリン演奏において、「真の意味での性能の良い弓で、腕の重さを利用した自然な圧力を掛けることで、楽器を底から鳴らすことができるのです。それがダイナミックレンジ(=表現)に繋がります」と説明してきました。
これはチェロでもまったく同じなのです。しかしチェロの場合、楽器を縦向きに構える構造上、ヴァイオリン演奏よりも楽器に対して弓の圧をかけないで、スラスラと軽やかに、楽器の表面を撫でるような演奏をしている人がとても多いです。このような演奏でも、チェロは鳴りやすいので、楽器が鳴っていると勘違いしているのです。
しかしそのような演奏ではダイナミックレンジが狭く、すなわち表現力に乏しい演奏しか出来ません。これは演奏者の演奏技術の問題では無くて、物理原理の話なのです。
本当の音を追求したければ、その「原理」を知ることが重要なのですが、プロの演奏者ほどプライドが高いので自分の知らない分野を教えてもらおうとはしないのです。
さて何が重要なのか、要点だけ書きます。
1.脳への理解
2.圧を掛けられる、性能の高い弓
3.上記の弓を使って初めて感じる事ができる、ダイナミックレンジの広い楽器。もちろんそれ以外の要素もあります。
4.床を感じる事のできる”Zauberplatte”
これらのベクトルを揃えると、自分の演奏の表現力に、音を聴いている観客は当然として、自分が一番驚くと思いますよ。
演奏とは芸術では無く、科学なのです。
「音楽の表現」というのは気持ちで出す物ではなくて、「聴いている聴衆という生物の生理的反応を引き起こす操作」です。それは「膝をコンと叩くと、膝がピクッと動く」あれと同じ原理なのです。
この音楽の真理を知りたい方は、弓や楽器、またはZauberplatteの試奏にいらしてください。おそらく眼から鱗が落ちると思いますよ。
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