先日、ある音大生が弓の試奏にいらっしゃいました。いつもの通りの説明(とは言っても、その方にとっては初めて聞く事ばかり)で、「発音の理論」、「良い弓とは」等を説明しながら試奏を始めると、ものの30分で音が変わり始めました。本人も、同伴の親御さんも驚いていました。
これは何もその方だけではなく、全ての人に言えることなのです。事実私の工房で弓を購入された方、試奏された方なら皆さん同じ感想を持たれていると思います。
何が重要なのか? それは「理論」です。逆に「良い弓」とは、その「理論」を実践させるために用意するものであり、「良い弓」だけを購入してもダメなのです。第一、その時の感覚だけで「良い弓」とおもって購入しても、後になって見当外れだったという事例があまりにも多いのです。
日本の弦楽器教育では「楽器側の理論」、「物理的な理論」が軽視されています。これでは自動車の片輪だけで走っているようなものです。しかし、ちょっとだけ(ものの1~2時間でも)その「発音の理論」を教わるだけで、今までのモヤモヤとした疑問点が消え、一皮むけたように音が変わるのです。それは同伴の方が驚くくらいです。
私は演奏のプロではありませんので、「演奏」について教えているのではありません。私が主張しているのは「発音」についてです。しかし本当の「発音」無くして、「演奏」には勧めないはずだからなのです。
それではその私が主張している「理論」とは、新発見の「理論」なのか?そうではありません。これまで全ての先生方が教えてきたものと同じ内容なのです。しかし私の説明がこれまでの一般的な説明と異なっているのは、「技術的」、「物理的」に体系立てて論理的に説明していることです。従って、これまでの先生方の教えを否定しているわけではないのです(一部否定しているものもありますが)。
その一例として、「もっと楽器を鳴らして・・・」、「楽器の胴体が響くように・・」、「裏板を振動させて・・」、「遠くまで届く音で・・」等々、皆さんはこれまでにこのような感覚的な表現をたくさん聞いてきたはずです。これを理論的に説明し直せますでしょうか?きちんと理論的に教わると(そのためには良い弓も必要なのですが)、これらの意味が見えてくるのです。
何が言いたいのかというと、そんな説明ができるこの私が偉いとか、または私の工房に凄い弓が揃っているとか、そんなくだらない話ではないのです。私が本当に言いたいのは、「皆さんは、ご自分の本当の力を出していない。それを出すためには、ちょっとしたヒントだけなのです。もったいない!」ということです。
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